TAP2025 Demo Day Report
カビの再発を断つ「除湿」が得意な空調機が最優秀賞。
東急ストアの湿度課題を解決へ
2026年5月20日
「共に、世界が憧れる街づくりを。」をコンセプトに掲げる東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)は、2025年度の総括となるDemo Dayを2026年3月に開催しました。
2025年度は東急グループの31事業者(22社)がTAPに参画。「交通」「ヘルスケア」「百貨店・スーパー・ショッピングセンター」など、各事業者の事業領域に加え、グループ横断注力領域として「デジタルプラットフォーム」「脱炭素・循環型社会・生物多様性」「生成AI」を加えた21の事業領域で協業を仕掛けています。
TAPでは、各領域の課題・ニーズ、将来像を可視化したり、webサイトで随時情報を発信したりと、スタートアップが応募しやすい体制を整えてきました(詳細はTAPのwebサイトからご覧ください)。
2025年度に協業に至った案件は23件。過去に登壇した会社との協業も継続し、各社サービスの東急グループへの実装を進めています。2015年のTAP開始から累計で、応募件数は1,278件、うち協業件数は184件、テストマーケティング・PoC数は115件、事業化・本格導入は59件、業務・資本提携は10件を数えるまでになりました(TAP事務局が連携するコンソーシアム型プログラムや他社プログラムなどをきっかけとした案件を含みます)。
さて、今回のDemo Dayには4社が登壇。2名の社外審査員を含む4名の審査員が共創案を「新規性 / 優位性」「蓋然性」「親和性」「成長性」という4つの観点から定量評価を行い、定性的な観点を加えて総合的に審査しました。会場からの投票でオーディエンス賞も選出しています。審査員は以下の方々です。
【外部審査員】
・シブヤスタートアップス株式会社 会長 渡部 志保 氏
・株式会社Luup 代表取締役CEO 岡井 大輝 氏
【社内審査員】
・東急株式会社 取締役社長 社長執行役員 堀江 正博 (審査員長)
・東急株式会社 常務執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 柏﨑 和義
それではDemo Dayに登壇した4社のスタートアップを紹介していきます。
2025年度Demo Dayに登壇した4社
●【東急賞】【オーディエンス賞】 カビの再発を断つ除湿ソリューション「デシカント空調機」
企業名:日本特殊陶業株式会社
東急グループ共創企業:株式会社東急ストア 開発統括室
最優秀賞に該当する東急賞とオーディエンス賞を受賞したのは、東証プライム市場に上場する日本特殊陶業株式会社(以下「Niterra」)です。TAPは一般的なアクセラレーションプログラムと異なり、スタートアップ以外の会社からの応募も受け付けています。今回はなんとも「TAPらしい」会社が東急賞に選ばれました。
Niterraが開発するデシカント空調機を端的に表現すると「除湿が得意な空調機」。従来のエアコンの除湿モードは過冷却式ですが、この方式では機器の中に水分が残り、カビの原因となってしまうことが課題でした。デシカント式なら、過冷却した後にデシカント材(乾燥材)でさらに除湿することで、より湿度を下げられます。
スーパーマーケットを運営する東急ストアは、鮮度と品質の高い店舗が揃っていることもあり、湿度とそれに伴うカビは天敵とも言える存在です。これまでもカビ防止塗料の塗布や送風ファンの設置で対応してきましたが、繰り返しの対策が必要でした。しかも近年は大気中の湿度が上がっており、カビ対策の重要性は高まっています。
この状況を解決するため、Niterraと東急ストアがタッグを組みました。Niterraのデシカント空調機を用いて、東急ストアの天井表面の湿度を徹底的に除去。その結果、天井付近の湿度は20%低減しました。これまでは半年毎に必要になっていたカビ対策が、今はキレイな状態が維持できており、1年以上も対策が不要になっています。
少数店舗での実証実験は完了しており、今後は導入店舗を拡大していく予定です。また、例えば東急電鉄が駅員の仮眠室や食堂の湿度管理に苦心しているように、湿度問題への対応が必要なグループ会社への導入も進めていきます。
こう聞くと、もしかしたらNiterraが東急ストアへの営業に成功しただけのように聞こえたかもしれません。しかし店舗の除湿は単に機器を導入すれば実現できるわけではなく、例えばスーパーなら商品の種類や品出しのタイミングなど、現場のオペレーションを詳細に理解する必要があります。今回の東急ストアとの実験では、他のスーパーマーケットや東急電鉄をはじめとした他のグループ会社への導入を見据えた「型」を作るのに役立ちました。TAPという枠組みを使ったからこそ、Niterraと東急ストア、双方のメリットが生まれる共創になったと言えるでしょう。
●【渋谷賞】薬局に行かずお薬を受け取れる配送前提の調剤薬局「Kiviaq pharmacy」
企業名:株式会社Kiviaq
東急グループ共創企業:東急株式会社 生活サービス事業部
渋谷賞を獲得したのは、配送前提の調剤薬局「Kiviaq pharmacy」を運営する株式会社Kiviaqでした。
少子高齢化が急速に進む中で、医療サービスに対するニーズが高まったり、医療機関の経営効率化が求められたりしています。利用者としても、病院の待ち時間が短くなったり、医療アクセスが良くなったりすれば嬉しいのは間違いありません。
こういった社会の要請に応えようとするのが、薬局に行かず薬が受け取れる、配送前提の調剤薬局「Kiviaq pharmacy」です。病院で処方箋を受け取ったら、LINEでそれを撮影。オンライン上で服薬指導を受けたら、最短30分で自宅に薬が届くという仕組みです。2025年には東京都港区芝大門に店舗を立ち上げました。
東急ベルとの実証実験では東京4区の東急電鉄沿線で当日配送無料を実施。リピートするユーザーも多く、高いニーズが証明されました。今後は配送エリアを拡大すると共に、配送スピード向上に取り組んでいく予定です。
東急が保有するキッズベースキャンプや高齢者住宅、ホテル、ネットスーパーなどとの連携も見据え、東急IDの生活行動データとKiviaqの健康データとの連携も模索していきます。
●【二子玉川賞】 体験型エンタメコンテンツプロデュース
企業名:株式会社Sally
東急グループ共創企業:東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ
二子玉川賞を獲得したのは株式会社Sally。展開するサービスは「都市を舞台にしたお化け屋敷のようなもの」だと同社代表の平石さんは語ります。例えば商業施設が舞台だとしたら、ショッピング中に新しいサプリを勧められた後、急に一般客に扮したスタッフに「君たちがさっき飲んだのはヤバイ薬だよ」なんて突然話しかけられ、そこから謎解きが始まる、いわゆる「イマーシブ・コンテンツ」です。
過去の実施事例では、利用者はイベントを楽しむだけでなく、体験した方の53%が訪れた施設で飲食をしたり買い物をしたりと、副次的な効果も確認されました。アニメなどとのコラボでも同じ効果はあるかもしれませんが、多額のコストがかかるため、頻繁には開催できません。一方でSallyのコンテンツなら、施設の空き区画や共用部を活用することで、投資は最小限で済みます。
今後は東急歌舞伎町タワーでのサスペンス体験や東急線の各駅などを活用した周遊型体験イベントなどを仕掛けていきたいと平石さんは意気込みました。
●【SOIL賞】編集アシスタントサービス「StoryHub」
企業名:StoryHub株式会社
東急グループ共創企業:東急株式会社 デジタルプラットフォームデジタル戦略G
編集アシスタントサービス「StoryHub」を提供するStoryHub株式会社がSOIL賞を受賞しました。
スマホやSNSが台頭し、情報は急増したものの、必ずしも街にとって価値ある情報が増えたわけではありません。地方のローカルメディアが衰退し、全国紙が地方から撤退しているという問題も出てきています。この課題を根本的に解決しようとするのがStoryHub社です。
同社は「StoryHubプラットフォーム」とAI時代の企業のストーリーテリングを支援する基盤を提供しています。使い方は簡単で、例えば「スポーツ選手へのインタビュー記事を作る」というレシピを選択して、動画や取材音声をアップロードして必要情報を入力し、「レシピ起動」を押すだけ。3分ほどでプロが認めるクオリティの記事が完成します。
今回StoryHubは、東急が提供する地域SNS「common」と連携しました。3エリアでプロライターとAIで記事を制作し、テストを実施。利用者のエンゲージメント向上、コスト削減が確認されました。今後は提供エリアを拡大すると共に、東京や神奈川といった大きな単位ではなく、青葉台や武蔵小杉といった細かい単位で量と質を担保したニュースを届けていく計画です。
渋谷、祐天寺、自由が丘…と、駅を移動するたびにニュース欄が更新されるような体験を提供し、東急のアセットと接点がある人のロイヤリティを高めて、沿線のブランド価値向上への貢献も目指します。
TAPは毎年、その年に最も活躍・貢献したTAP参画事業者を表彰する「ベストアライアンス賞」も選定しています。今年は、東急賞を受賞したNiterraを担当した東急ストアが選ばれました。
TAPではスタートアップからの応募を24時間365日受付中!
以上、2025年度のDemo Dayに登壇した4社の紹介でした。以下は審査員長である東急株式会社 取締役社長 社長執行役員 堀江の総評です。
「日本特殊陶業については、東急グループのアセットや事業が抱える具体的な課題に対して、技術の提供にとどまらず、事業そのものを共に創っていくという将来像まで描けていた点を高く評価しました。大企業ならではの技術力と事業基盤があるからこそ取り組む意義がある領域であり、東急のように長年にわたって街とコミュニティを作ってきた企業との協業にも大きな可能性を感じています。販売会社の設立まで視野に入れた構想を含め、今回の提案は共創の先にあるスケールの姿を具体的に想起させてくれました。東急賞にふさわしい提案であったと考えております。」
「今回は大企業が東急賞の受賞となりましたが、スタートアップ企業の皆さんも、ぜひ来年以降、東急賞の受賞を目指して頑張っていただければ幸いです。」
湿度課題を解決するNiterraの東急賞(最優秀賞)受賞で幕を閉じた2025年度のDemo Day。TAPはここから東急グループ各社とのオープンイノベーションをさらに加速させていきます。
TAPでは、随時スタートアップからのエントリーを受け付け、毎月審査を実施しています。詳細はこちらからご覧ください。皆さまからのご応募を、お待ちしています!
(執筆:pilot boat 納富 隼平・撮影:ソネカワアキコ)