TAPの始動から10年!戦略や環境によって形を変えてきたこれまでを踏まえ、
これからのオープンイノベーションを占う | KDDI×三井不動産×東急
2025年4月18日
2025年3月に開催された東急アライアンスプラットフォーム(以下「TAP」)2024のDemoDay。最優秀賞は、人とテクノロジーの力を活用した高齢者向けのヘルスケアサービス「STARTWELL(スタートウェル)」が受賞しました。
DemoDay当日には「TAPの始動から10年!日本におけるオープンイノベーションのこれまでの10年、これからの10年」と題し、これからのオープンイノベーションを考えるセッションを開催。モデレーターを務めた合同会社pilot boatの納富隼平氏は「各社が社内の戦略や社外の環境変化に応じて、形を変えながらオープンイノベーションを継続していることが印象的だった」とコメントしています。
本稿では、セッションの模様をダイジェストでお送りします。登壇したのは以下の方々です。
・KDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部 BI推進部 エキスパート 清水 一仁 氏
・三井不動産株式会社 イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部 プリンシパル 太田 聖 氏
・東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ マネージャー 田中 浩之
・合同会社pilot boat 代表社員CEO 納富 隼平 氏(モデレーター)
KDDIがスタートアップと社外企業をわざわざマッチングする理由
納富(pilot boat):最初に、各社がどのようにオープンイノベーションに取り組んできたか、簡単に教えてください。
清水(KDDI):KDDI株式会社の清水です。KDDIのオープンイノベーションは、大きく「KDDI ∞(むげん) Labo」と「CVC」から成り立っています。
清水(KDDI):
KDDI ∞ Laboは2011年に始まり、現在はKDDIの人間が、日々新しく会う全国のスタートアップと大企業をマッチングする活動をしています。東急や三井不動産とも連携させてもらっていて、今では計100社以上の大企業がパートナーとして参画するに至りました。
一方のCVCは、現在3号ファンド。サイズは300億円ほどで、これまで160以上のスタートアップに投資をしてきました。日本のスタートアップは6割程度で、4割程度が海外です。スタートアップへの投資を通じて、一緒に新規事業をつくることを目的としています。
KDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部 BI推進部 エキスパート
2007年 KDDI株式会社に入社。
Google社との検索エンジン事業や新サービスの立ち上げ等を担当。
2011年 北米サンフランシスコ拠点立ち上げのため赴任。
北米スタートアップへの出資と日本進出支援を担う。
2018年に帰国し、事業共創プラットフォーム
「KDDI ∞ Labo」のリーダーとして、国内大企業とスタートアップのオープンイノベーションに繋がる様々な枠組みを企画・推進。
現在はKDDI Open Innovation Fundの、海外投資案件の日本市場進出を統括しつつ、日本のスタートアップのグローバル市場進出支援を推進中。
納富(pilot boat): CVCはわかりますが、スタートアップと大企業のマッチングは、KDDIにどんなメリットがあるんですか?
清水(KDDI):スタートアップや大企業から仲介料をいただいているわけでもなければ年会費もありません。「じゃあボランティアなんですか?」とよくご質問いただくのですが、それも違います。
ではなぜやっているかというと、マッチングを通じてスタートアップの実力がわかるからです。数々のマッチングをする中で、本当に有望なスタートアップがわかってくる。そういった会社には次のステップとしてファンドから出資したり、KDDIの別の事業部とマッチングしたりします。そのための前段階としてこの活動をしている、というわけですね。
太田(三井不動産): 三井不動産ベンチャー共創事業部の太田です。スタートアップ専用ワークスペース「THE E.A.S.T.」の運営を通じて知り合ったスタートアップと三井不動産の事業共創を推進しています。
三井不動産株式会社 イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部 プリンシパル
リノベーション事業専門の鉄道系不動産会社で分譲住宅の企画推進、シェアハウス・シェアオフィスの運営、新規事業企画に従事。2022年より31VENTURESに参画し、スタートアップ向けオフィスTHE E.A.S.T.シリーズの運営、コミュニティ創出、共創支援を担当。
太田(三井不動産): 改めて、三井不動産は住宅、オフィス、ホテル、商業施設、物流施設といった不動産アセットの開発・運営をしている総合デベロッパーです。その中でベンチャー共創事業部は、既存の不動産事業のイノベーションや、オープンイノベーションを通じた新規事業開発をミッションとしています。その手段としてオフィス運営やCVCを用い、日々スタートアップとの接点を築いているというわけです。
納富(pilot boat): 三井不動産は日本を代表する不動産会社ですが、投資先を見ると幅広い分野のスタートアップに投資していますよね。一見不動産とは関係のない、広範な分野との接点を築いているように感じています。
太田(三井不動産): 投資先決定やリーシングのプロセスにおいては、共創担当者が各スタートアップとディスカッションをして、どういった協業ができそうか検討しています。スタートアップの分野だけを見ると、三井不動産とは距離があるように感じるかもしれませんが、裏には両社を結ぶストーリーがあるんです。
田中(東急): 東急株式会社フューチャー・デザイン・ラボの田中です。
東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ マネージャー
2008年 東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)に入社
東急線沿線のお客様を知るためのBtoC研修(旅行代理店での営業係や三軒茶屋の駅係員)を経て、住宅事業部門に配属。予決算管理やマンション開発を担当。
2016年 ビル事業部門へ異動
オフィステナントリーシングや収益物件の取得を担当。その後グループ会社へ出向し、オフィス運営・管理に従事。
2022年 広報部門へ異動
報道担当として、メディアとのリレーションや危機管理広報を担当。
2024年 フューチャー・デザイン・ラボに異動
オープンイノベーション領域のマネージャーとして、東急アライアンスプラットフォーム運営やスタートアップ企業への投資を担当。
田中(東急):
フューチャー・デザイン・ラボでは、大きく3つの柱をもっています。まずは社内起業家育成制度。私が担当しているオープンイノベーション。最後に、次世代の教育や水循環など、飛び地的な領域です。
スタートアップへの投資もしていて、これまで電動キックボードのLuupやAI警備システムを提供するアジラに出資してきました。
オープンイノベーションプレイヤーの3社が10年で変わったこと
納富(pilot boat):
では本題に入っていきます。本日のテーマは「日本のオープンイノベーション これまでの10年、これからの10年」。ちなみに、TAPと三井不動産の31venturesは2025年で10周年です、おめでとうございます。KDDI ∞ Laboは2011年から始まっていて、その先を走っていますね。
3社はオープンイノベーションに10年以上取り組んできました。その間に事業環境や戦略が変わったり、それに伴って方針転換をしたりといったこともあったかと思います。コロナ禍という特殊事情もありました。というわけで、まずはこれまでの10年を振り返り、次の10年を考える礎にしたいと思います。
清水(KDDI):先述したようにKDDI ∞ LABOは、現在スタートアップと大企業のマッチングプログラムとして運営していますが、実はこの形式は2014年からなんです。2011年の立ち上げから数年間は、KDDI単独でいわゆるアクセラレータープログラムを運営していました。
納富(pilot boat): そもそも、最初はなぜアクセラレータープログラムだったのでしょうか。
清水(KDDI):2011年というのは、ガラケーからスマホへの転換期でした。KDDIには当時EZwebという独自のプラットフォームがあったものの、今後はAppleやGoogleに置き換わっていくだろうという強い危機感があったんです。でもスマートフォンやオープンプラットフォームというものはよくわからない。であれば既にスマホのビジネスにチャレンジしている起業家を応援しようと考え、アクセラレータープログラムを始めました。
その後、スマホアプリ開発以外の、IoTやハードウェア関連のスタートアップが増加してきたなどの事情もあり、スタートアップに対する支援の幅をさらに広げようと考え、KDDI以外の大企業にもパートナーとして加わって頂く「パートナー連合」がスタートしたんです。
その後2020年になると、コロナ禍に陥って多くのスタートアップが困り果てていました。それで、大企業総出となってそういった会社を支援できないかと考え、今のマッチング型を開始。事業共創プラットフォームと名乗るようになりました。
清水(KDDI):次第に、参加企業の増加に伴ってマッチング数も増加し、協業や資本提携も増えるという結果に繋がるようになってきました。やる気のある大企業が集まれば集まるほど、有能なスタートアップが集まってくるという好循環、ネットワーク効果的なものが起きた結果だと考えています。
太田(三井不動産):
2024年度に三井不動産は「& INNOVATION 2030」という新長期経営方針を発表しました。この中で掲げる事業戦略では、3つの道を掲げています。一つ目に、コア事業の更なる成長。2つ目に、新たなアセットクラスへの展開。3つ目に新事業領域の探索、事業機会獲得です。ベンチャー共創事業部は、主に3つ目を担当するイノベーション推進本部の中に含まれる形となりました。他にも、ライフサイエンス・イノベーション推進部や宇宙ビジネス・イノベーション推進部、産学連携推進部など、イノベーションに関連する部門が統合されています。
こんな事情もあり、ちょうど現在、この10年を棚卸ししているところです。オープンイノベーションそのものは継続していきますが、今後は「& INNOVATION 2030」に沿って新しい産業、つまり三井不動産の新たなビジネスの柱をつくる仲間を探すための活動の比重が増すかもしれません。
田中(東急): 東急アライアンスプラットフォーム(TAP)は2011年に始まっています。2017年までは1年に1回の開催でしたが、スタートアップのスピード感に追いつくため、365日いつでも受け付ける体制に変更しました。その結果スタートアップからみても使い勝手が良くなり、結果的に10年で約1,100件のスタートアップから応募をいただくに至っています。
マッチングや投資を、社内の別の案件に活かす
納富(pilot boat): 続いて、最近始めた取り組みについて教えてください。
田中(東急):
TAPは、鉄道会社としては国内初のアクセラレータープログラムとして始まりました。その後、他の鉄道会社もオープンイノベーションを始めるに至っています。そうすると自然と情報交換の機会も増えるのですが、各社が抱える課題は似たようなものが少なくないと気づいたんです。
そこでJR東日本スタートアップ株式会社、小田急電鉄株式会社、株式会社西武ホールディングス、東急は、鉄道横断型社会実装コンソーシアム「JTOS(ジェイトス)」を開始しました。
スタートアップからすると、各鉄道会社に同じ話を何回もするのは大変です。その点、JTOSに相談いただければ4社一気に相談できる。実証実験のフィールドも4倍になります。ちなみに東京都が運営するTIB CATAPULTの一環として、JTOS4社 + 京王電鉄、京急電鉄も含めた「Tokyo Railway Innovation Partnership(TRIP)」も始めました。
これらを上手く使って、鉄道関連の事業共創や事業化のスピードを上げていきたいですね。
太田(三井不動産):
三井不動産では2021年に「未来特区プロジェクト」というアクセラレーションプログラムを開催しました。その中では大きく「文化」「コミュニケーション」「生存」という領域で、スタートアップやアカデミアなどのパートナーとの事業共創の可能性を模索していたんです。
アクセラレーションプログラムを通して各分野の知見が深まり、ネットワークが広まったこともあって、その後「文化」はエンタメ領域として、「生存」はエネルギー領域としてビジネス展開の検証を深めていくことにしました。
清水(KDDI):
スタートアップ支援や共創という文脈でいうと、最近の最も大きな動きはローソンの買収です。これまでKDDIのお客さまとの接点はスマートフォンしかなかったのに、一気に世界で2万店というフィジカルの接点が新たにできました。
ストアの運営自動化やお客さまの購買体験の革新といったリテールのDXは、KDDIだけではできません。とはいえ、ローソンの買収後に「ロボットを店舗に導入したいよね、提供できる会社を探そうか」なんてやっていたら、導入までに時間がかかりすぎてしまいますし、共創というよりは業務委託の関係になってしまう。
しかし以前から支援してきたという関係性があったり、株主として一歩踏み込んだ支援をしてきたりといった積み重ねがあったおかげで、今、様々なスタートアップと共創できる可能性が出てきています。今ちょうど、ロボットやAI関連スタートアップの力を存分に借りようとしていて、その引き出しとしてKDDI ∞ Laboやファンドで支援してきたスタートアップに声をかけているところです。
納富(pilot boat): KDDIとローソンという大きなプロジェクトに、スタートアップが食い込めるものですか?
清水(KDDI): 食い込めます。日本のコンビニは世界でも圧倒的なサービス品質や顧客体験を提供している。今後日本の労働力が減っていっていく中で、小売りの自動化をしつつ顧客単価を上げていくという課題を解決できれば、そのソリューションはそのまま世界に出していけると考えています。
領域は広く、時間は長く、展開はグローバルに
納富(pilot boat): 過去と現在に続き、未来の話を伺いたいと思います。3社の今後のオープンイノベーションの展開を教えてください。
太田(三井不動産):
オープンイノベーションというものは地道な活動です。私のミッションには既存事業のアップデートも含まれています。そのためにはピッチイベントを開催する、マッチングをする、スタートアップとの接点を増やすというだけでなく、社内営業が非常に重要です。
というのも、事業部は自部門の事業推進に対して一生懸命に取り組んでいるので、最新のテクノロジーに視野を向ける機会は比較的少なくなってしまいます。とはいえ「世の中にこういうスタートアップがいて、こういう面白いことに取り組んでいる」といった情報は、新たなビジネスに取り組むという意味でも知っておいた方がいい。特に不動産事業はそもそもその活動単位が大きいので、業務効率が1%改善されれば、生み出される付加価値も大きいわけです。新しいチャレンジだけではなくて、今あるものを少し良くするだけでもインパクトが大きい。そのためには社内営業が欠かせません。草の根活動も粛々とやっていきます。
田中(東急):
これまでのTAPは、領域的にも時間軸的にも、東急に近い領域のオープンイノベーションが多かったと感じています。もちろん会社としてはこれが重要なのは間違いありません。
ただ、もっと日本全体の社会課題を長期的に捉え、かつエリアを自分の会社の範囲内に留めずにスタートアップと新しい課題解決に取り組めないかと考えています。
我々がオープンイノベーション活動をすることで、少しでも沿線、広くは日本に住んでいる皆さまの幸福度が上がるような何かしらの取り組みをしていきたいですね。
清水(KDDI): 次の10年は「グローバル」がキーワードになると思っています。
清水(KDDI):
日本のスタートアップはユニコーンが少ないと言われていますよね。政府も「スタートアップ育成5ヵ年計画」を立てたりと色々な施策を打っていますが、状況は大きく変わっていません。ですが、誰かがやらないと状況は変わらない。KDDIとしても私個人としても、日本のスタートアップが当たり前のようにグローバル市場に出ていってほしいと思っているので、グローバルにはぜひ取り組んでいきたいです。
例えば、ローソンの件を先述しましたが、ローソンは日本だけでなく、アジアやハワイにも店舗を保有しています。まずは日本で試し、成功したらアジアで試すといったこともできるでしょう。
日本のスタートアップが当たり前のようにグローバルな大企業と提携し、当たり前のようにグローバルのVCから資金調達する。こういった状況の創出に、少しでも貢献したいと思います。どうやったらそれができるのか、社内でも今議論しているところですね。スタートアップとKDDIの事業共創によって、少しずつ、日本から世界へ一緒に出ていきたいです。
事業共創とは。協業との違い
納富(pilot boat): 未来の話をしてこれで終わり...かと思いきや、最後に各社が考える「事業共創」とはなにか、これまでの10年を踏まえて教えてください。
清水(KDDI):
大企業がスタートアップと事業共創を行う理由は「現状維持は衰退の始まり」だからだと考えます。
国内外で、大企業が解体されるというニュースは枚挙に暇(いとま)がありません。それを防ぐために大企業に必要なのは、常に新しい領域にチャレンジするスタートアップをリスペクトし、彼らの描くビジョンを大企業のアセットを活用して実現してもらうこと。結果として、それが大企業にとっても新規事業の創出に繋がっていくはずです。
KDDI自身も、40年前はスタートアップでした。1984年に京セラの稲盛和夫氏が現在のKDDIを創業し、そこに新卒1年目として入社したのが、現在の社長である髙橋誠(2025年2月現在)です。彼はスタートアップが40年かけて大企業へと成長していく姿を体験・牽引してきました。こうした背景もあり、KDDIには「スタートアップマインドを尊重する文化」が根付いています。
だからこそ、これからもスタートアップの描く未来に共感し、KDDIの通信インフラや顧客基盤を活用してもらいながら、新しい事業を共に生み出していきたいと考えています。それこそが、事業共創の本質ではないでしょうか。
太田(三井不動産):
すごくいいお話で、続けて話すのにプレッシャーを感じています(笑)。
先ほどの田中さんの発言で閃いたのですが、「事業共創」に似て非なる言葉に「協業」という言葉がありますよね。協業を否定するわけではありませんが、両者の違いは、遠くて高いビジョンの共有だと思います。つまり、お互いが今ないものに対して一緒に取り組んでいくことが「事業共創」ではないでしょうか。
そう認識することで、その手前の失敗が、失敗ではなく学びに変わります。ビジョンさえ共有し、遠くの高いところを一緒に目指し続けてさえいれば、方法を変えても向かい続けられる。事業共創とはそういうことなのかなと思います。
田中(東急): 清水さんと太田さんの話を踏まえると、事業共「創」とは、ワクワクする未来を一緒に描いて創ることだと思います。「創る」という字があることで、同じ絵がイメージできていれば、Howはどうとでもなって、チャレンジでき、社会課題を解決できる。ワクワクする未来を一緒に描きたいなと思います。
納富(pilot boat):
本日は「これまでの10年、これからの10年」をテーマに、各社のオープンイノベーションについて話を聞いてきました。個人的には、各社が社内の戦略や社外の環境変化に応じて、形を変えながらオープンイノベーションを継続していることが印象に残っています。
清水さん、太田さん、田中さん、本日はありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)