TAP2024 Demo Day Report
テクノロジーを活用した高齢者向けヘルスケアサービス
「STARTWELL」が最優秀賞。
東急ベルの家ナカ事業との共創を実現

2025年4月11日

「共に、世界が憧れる街づくりを。」をコンセプトに掲げる東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)は、2024年度の総括となるDemo Dayを2025年3月に開催しました。

2024年度は東急グループの31事業者(24社)がTAPに参画。各事業者の「交通」「ヘルスケア」「百貨店・スーパー・ショッピングセンター」等、各事業者の事業領域に加え、グループ横断注力領域として「デジタルプラットフォーム」「脱炭素・サーキュラーエコノミー」を加えた21の事業領域で協業を実現しています。

またTAPでは、各領域の課題・ニーズ、将来像を可視化し、HPで随時情報を発信。スタートアップが応募しやすい体制を整えてきました(詳細はTAPのwebサイトからご覧ください)。

協業ニーズの例

2024年度に協業に至った案件は25件。過去に登壇したLuup社と資本業務提携を実施し、弘栄ドリームワークス、ReCute、アジラといった会社のサービスの東急への実装を進めています。2015年のTAP開始から累計で、応募件数は1,123件、協業件数は137件、事業化・本格導入は50件、業務・資本提携は9件を数えるまでになりました(TAP事務局が連携する外部プログラム等をきっかけとした案件を含みます)。

さて、今回のDemo Dayには5社が登壇。3名の社外審査員を含む5名の審査員が共創案を「新規性」「成長性」「親和性」「(将来像の)蓋然性」という4つの観点から定量評価を行い、定性的な観点を加えて総合的に審査しています。またライブ配信をご覧いただいた方々からの投票でオーディエンス賞も選出しました。

【社外審査員】
・TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 戦略投資部 国内投資チームリーダー 内田 多 氏
・シブヤスタートアップス株式会社 CEO 渡部 志保 氏
・デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 Morning Pitch運営統括 永石 和恵 氏

【社内審査員】
・堀江 正博 / 東急株式会社 取締役社長
・岩井 卓也 / 東急株式会社 常務執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ 管掌

審査員による審査の様子

それではDemo Dayに登壇した5社のスタートアップを紹介します。

●【東急賞】人とテクノロジーを組み合わせた高齢者向けヘルスケアサービス「STARTWELL」

スタートアップ:Nurse and Craft株式会社
東急共創企業:東急株式会社 生活サービス事業部

Nurse and Craft 代表取締役 深澤 裕之 氏

最優秀賞に該当する東急賞を受賞したのはNurse and Craft。同社が提供する「STARTWELL(スタートウェル)」は、人とテクノロジーの力を活用した高齢者向けのヘルスケアサービスです。

スマートウォッチを活用し、身体・行動データの24時間モニタリングと、月に1〜2回の尿検査を実施。スマートウォッチから歩数や睡眠データを、簡易尿検査からビタミンCやカルシウムを、別途体重や血圧などのデータを取得します。そこから高齢者の栄養状態や睡眠状態、運動の必要性などを把握。これらのヘルスデータを元に、看護師が訪問して高齢者に健康上のアドバイスをします。

とはいえ、STARTWELLの要はテクノロジーではありません。「Well-Beingのためには、良好な人間関係の維持が不可欠。『いつも気にしているよ』『応援しているよ』というメッセージを高齢者に伝えることが重要」だとNurse and Craft代表の深澤さんは語ります。

Nurse and Craft社は瀬戸内に拠点を置き、同地域を中心にサービスを展開中。海外でのサービス展開の準備にも既に取り掛かっています。

東急グループとは、東急が展開するホーム・コンビニエンスサービス「東急ベル」との共創を実現。東急ベルのスタッフが、デジタル機器の操作サポートや不具合時の様子伺いをし、バイタル異常時の様子を確認する実証実験を実施しました。(なお、健康管理のアドバイスはNurse&Craftが対応します)。サービスを利用したユーザーからはポジティブな声が多く寄せられています。今後は東急の多様なケイパビリティを使い、データに基づいた運動指導や体調が悪くなる前の予防、セキュリティ面などの連携をしていく考えです。

Nurse and Craftの深澤さん(左)と東急株式会社 生活サービス事業部 井出真尋

●【渋谷賞】【オーディエンス賞】ライブコマースアプリ「Peace you LIVE」

スタートアップ:株式会社ピースユー
東急共創企業:東急株式会社 生活サービス事業部

株式会社ピースユー 代表取締役 藤瀬 公耀 氏

渋谷賞とオーディエンス賞を獲得したのは、ライブコマースアプリ 「Peace you LIVE(ピースユ―ライブ)」を
提供するピースユー。

Peace you LIVEは、ライブ配信・出品・購入・商品管理まで、すべてアプリ内で完結するサービスです。買い物に特化しており、視聴中にわずか3タップで紹介された商品を購入できます。視聴者がライバーに「このスカートの丈は何センチですか?」などと質問することで、より楽しい購買体験を実現。ライバーへの商品提供や決済、物流など裏方サポートも万全です。

ピッチ現在で、ライバーは5,500人以上おり、コスメや食品、アパレル、アクセサリーなど、幅広いジャンルの配信がされています。若年層ではなく、支払い能力の高い30〜50歳台のユーザーが多い点もPeace you LIVEの特徴です。あるショッピングモールでは、2日間の配信で6,000点以上の商品を販売し、店舗の1週間分に相当する売上げを出しました。

東急との共創の舞台となったのは、東急百貨店が運営する渋谷ヒカリエ ShinQs。コスメフロアにある1つのショップから、営業時間終了後にライブ配信を実施。その結果、約2時間で3,500名超の視聴があり、想定を上回る売上を達成しています。アンケートからもお客さまが楽しみながら購買できた様子がうかがえました。将来的には、東急とのポイントや決済システムとの連携、東急の全国商業施設からのライブ配信、グッズ販売などの共創を見込みます。

ピースユー藤瀬さん(左)と東急株式会社 生活サービス事業部 和田遥

●【二子玉川賞】一時保育検索・予約「あすいく」

スタートアップ:株式会社grow & partners
東急共創企業:東急株式会社 生活サービス事業部

株式会社grow&partners 代表取締役 幸脇 啓子 氏

株式会社grow&partnersが提供するのは、子どもの体験とあずかりのプラットフォーム「あすいく」です。二子玉川賞を受賞しました。

あすいくのユニークな点は、保護者の同行不要で、4〜6歳の子どもたちを対象に、保育園だけでなく、駅やショッピングセンター、映画館といった商業施設などの企業の資源を利用して一時保育を実現する点にあります。実施プログラムはLINEで配信し、わずか30分で完売するほどの人気。2万円を超えるコンテンツも即完売し、30名ものキャンセル待ちが出る盛況ぶりです。保護者の8割以上がコンテンツに満足し、アセットを提供した企業への印象アップにも貢献しています。プログラムの開発や保育士の手配はすべてgrow&partnersが担うため、企業は広報やコンテンツ提供に集中すればいいだけなのも魅力です。

東急百貨店とは、「お仕事体験」や「裏側探検」をコンセプトにして、接客やレジ打ち、包装などの体験や、百貨店のバックヤードツアーなどが体験できる4時間のプログラムを作り、5月に実施する予定です。今後は東急バスとの洗車体験、東急電鉄との鉄道体験、東急エージェンシーとのクリエイティブ体験、キッズベースキャンプとの室内型体験、ホテル&リゾーツでの清掃・パティシエ体験など、東急グループと「育児×ウェルビーイング」に繋がる新たなサービスの共創に取り組んでいく算段です。

grow&partners 幸脇さん(左)と東急株式会社 生活サービス事業部 和田遥

●【SOIL賞】歩けば歩くほどポイントが貯まって、環境にもいいアプリ「Pucre」

スタートアップ:株式会社PBADAO
東急共創企業:東急株式会社 都市開発本部

株式会社PBADAO 代表取締役 堀井 紳吾 氏

PBADAO(パバダオ)が提供するのは「Pucre(プクレ)」。利用者は歩くだけでカーボンクレジットを裏付けたポイントを貯められ、お買い物に利用できます。企業は買い物で利用されたポイントを取得し、裏付けられるカーボンクレジットをカーボンオフセットに利用することで、経済性と環境性を両立します。

東急グループとは、フューチャー・デザイン・ラボと渋谷の街を舞台にNFTを用いて現実世界とweb3の接点を創る参加型・共創型プロジェクト「Shibuya Q DAO」を実施したり、東急不動産とは「ウェルネス×グリーン」プロジェクトの基盤として利用したりしました。また渋谷区が開催したテクノロジー×アートのカルチャーイベント「DIG SHIBUYA2025」では、東急の渋谷開発事業部と一緒に、約100人で5,000人分の移動相当のスコープ3排出量に匹敵するファンディングを実現しています。

東急渋谷開発事業部の峰﨑も「東急はこれまで多くの渋谷のイベントに携わってきた。今後は、歩くことによって環境にも貢献できる取り組みを実施していきたい」と意気込みます。

PBADAO 堀井さん(左)と東急株式会社 都市開発本部 峰﨑大輔

●【SOIL賞】引退バスを再活用したサウナ体験「サバス」

スタートアップ:株式会社リバース
東急共創企業:東急バス株式会社

リバース 代表取締役 松原 安理佐 氏

引退したバス車両を再活用した移動型サウナバス「サバス」を提供するのはリバース。バスに本格的なサウナ設備を搭載し、目的地に運ぶことで、その場所でしか得られない特別なサウナ体験を生み出します。

東急バスの車両を活用したサバスには、優先席部分をモチーフにした「少人数でゆったり入れる優先サウナ」や「サロン席風サウナ」を備えました。「サウナ→水風呂→外気浴」という流れを体験できるように、水風呂や外気浴用プール・ビーチチェアなどの備品も提供しているため、利用者はバスの行き先でちゃんと「ととのう」ことができます。リバースは車両を企業に貸出し、企業はイベントやプロモーションなど、多様な用途に使えるようにしました。

先述の通り、バス車両は東急バスのものを利用。車両の運転や整備は東急バスが担います。また東急不動産とも連携し、オフシーズンのスキー場やリゾート施設での活用も進めているところ。今後は、平常時にはイベントや商業施設などでの活用も見込む一方で、災害時に、例えば乳児や妊産婦向けの「災害対応バス」として活用できないか、模索しているそうです。「バスの新しい使い方を社会に提案していきたい」と、リバース代表の松原さんは意気込みます。

リバース 松原さん(左)と東急バス株式会社 澤又謙一

なお、2024年度に最も活躍・貢献したTAP参画事業者を表彰する「ベストアライアンス賞」には、Nurse and Craft、grow & partners、ピースユー社を担当した東急生活サービス事業部が受賞しています。

TAPではスタートアップからの応募を24時間365日受付中!

以上、2024年度のDemo Dayに登壇した5社の紹介でした。以下は審査員長である東急株式会社取締役社長堀江の総評です。

「Nurse and Craftは、サービスそのものが日本の社会課題解決に向かっているだけでなく、共創を通じて東急グループ社員のやりがいに繋がっている点も素晴らしいと感じました。スタートアップ単体では難しい領域にも思えますが、東急グループと力をあわせることで課題を解決できる可能性にも魅力を感じています。

STARTWELLは東急ベルの家ナカのメニューのひとつになりうるし、病院やジムとの連携も考えられる。今後生ずるであろう、地方と都市でマーケットの違いや、専門人材をどう招き入れるかといった課題を乗り越えて成長してほしいと思います。」

▲ 審査委員長の東急 取締役社長 堀江正博(左)と、東急賞を受賞したNurse and Craftの深澤さん

テクノロジーを用いた高齢者のヘルスケアサポート「STARTWELL」を提供するNurse and Craftの東急賞(最優秀賞)受賞で幕を閉じた2024年度のDemo Day。TAPはここから東急グループ各社とのオープンイノベーションを加速させていきます。

TAPでは、随時スタートアップからのエントリーを受け付け、毎月審査を実施しています。詳細はこちらからご覧ください。皆さまからのご応募を、お待ちしています!

(執筆:pilot boat 納富 隼平・撮影:ソネカワアキコ)