TAP2023 Demo Day Report
最優秀賞は未利用農業資源を価値あるものに生まれ変わらせる「フードリボン」。沖縄発、東急グループとサーキュラーエコノミー構築に挑む

2024年3月28日

「共に、世界が憧れる街づくりを。」をコンセプトに掲げる東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)は、2023年度の総括となるDemo Dayを2024年3月に開催しました。

2023年度は東急グループの28事業者(21社)がTAPに参画。「交通」「ヘルスケア」「百貨店・スーパー・ショッピングセンター」等19の事業領域で協業を実現しています。またTAPでは、各領域の課題・ニーズ、将来像を可視化し、HPで随時情報を発信。スタートアップが応募しやすい体制を整えてきました(詳細はTAPのHPからご覧ください)。

協業ニーズの例

2023年度に協業に至った案件は23件。前年のDemo Dayに登壇したアジラ社と資本業務提携を実施し、クラダシ、AXELL、SUSHI TOP MARKETING各社とも協業を進めるなど、過年度のDemo Day登壇企業とも継続的に取り組みを進めています。2015年のTAP開始から累計で、応募件数は1062件、協業件数は145件、事業化・本格導入は46件、業務・資本提携は9件を数えるまでになりました(TAP事務局が連携する外部プログラム等をきっかけとした案件を含みます)。

さて、今回のDemo Dayには6社が登壇。3名の社外審査員を含む5名が共創案を「新規性」「成長性」「親和性」「(将来像の)蓋然性」という4つの観点から定量評価を行い、定性的な観点を加えて総合的に審査しています。またライブ配信をご覧いただいた方々からの投票でオーディエンス賞も選出しました。

【社外審査員】
・SBIインベストメント株式会社 取締役 執行役員 CVC事業部長 加藤 由紀子 氏
・株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当 岸 裕一郎 氏
・デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 Morning Pitch運営統括 永石 和恵 氏

【社内審査員】
東急株式会社 取締役社長 堀江 正博(審査員長)
東急株式会社 常務執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 東浦 亮典

▲ 登壇企業のピッチを聞く審査員のみなさま

それでは登壇・受賞した各社を紹介していきます。

●【東急賞(最優秀賞)】株式会社フードリボン | 地球と共存する“地域循環”まちづくり

https://food-reborn.co.jp/
共創企業:東急電鉄

▲ 株式会社フードリボン 代表取締役社長 宇田悦子さん

最優秀賞である東急賞を獲得したのは、未利用農業資源であるパイナップルの葉やバナナの茎から繊維をはじめとしたバイオ素材を開発するフードリボン社です。

那覇から車で北に1.5時間の場所にある大宜味村(おおぎみそん)に本社を置くフードリボン社。2019年より未利用農業資源であるパイナップルの葉からの繊維抽出を試みますが、満足な水準の製品はなかなか作れませんでした。しかし2023年に開発した水の高圧噴射・連続式の繊維抽出技術が、従来よりも生産効率、高品質、コストを大幅に改善した生産を可能としました。現在、繊維からはアパレル製品や紙、ファブリックを、葉肉残渣からは飼料やバイオエタノール、バイオプラスチックなどを生産しています。

ビジネスモデルでは、循環型社会を強く意識。生産地で未利用農業資源を循環させ、生産背景が透明な商品を消費者に提供します。なお、フードリボンの取り組みは元々生産の過程で捨てられていたものを活用しているため、生産者の所得向上に繋がっています。消費者からは役目を終えた衣服や生分解性製品などを回収し、こちらも循環の仕組みを地域や組織を超えて賛同者と連携し構築。今後はファッションだけでなく、自動車や飲食、ホテル、建設など、あらゆる業界で活用を進めていく予定です。

フードリボンが生産したストローは、既に東急ホテルズで利用が進んでいます。今後は東急グループが所有する宮古島まいぱり熱帯果樹園で生産しているパイナップルを使った共同繊維抽出や、農家支援も実施していく予定です。

Demo Dayはオンラインで配信しました

また、TAPをきっかけにフードリボンは、東急電鉄が推進する田園都市線地下5駅のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」と連携し、「駒沢大学駅前 地域循環プロジェクト“KOMAZAWA MOAI FARM”」に約半年間取り組みました。これは駒沢大学駅周辺の事業者や地域住民参加型の、環境・循環をテーマにした農園を企画・運営するプロジェクト。同社はこの中で、生ごみや天然繊維をエネルギーと肥料に変える小規模メタン発酵や、そこから発生したバイオガスをコーヒー豆の焙煎に活かす取り組みなどを実施しました。またプロジェクトへの参加者に対して、企業からの協賛品(ハンカチやTシャツ、バッグなど)に交換可能な環境活動がポイントとして貯まる「MOAIポイント」を付与する仕組みを連携企業と共に構築。KOMAZAWA MOAI FARM内で複数回実施したイベントには、4ヵ月で2700名が参加し、大変な盛り上がりを見せました。駒沢から始まったこの取り組みを今後、沿線、そして日本中へ展開していく算段です。

▲ フードリボンの宇田さん(左)と東急電鉄の増田尚大(右)

● 【渋谷賞】株式会社グリーンズグリーン|苔栽培によるカーボンニュートラルな駅づくり

https://greensgreen.jp/
共創企業:東急電鉄

▲ 株式会社グリーンズグリーン 代表取締役 佐藤靖也さん

土を使わずに、シート上で苔を人工的に栽培する技術を開発するのはグリーンズグリーン社。同社の苔シートは耐用年数は30年で、草刈り不要という特徴をもちます。植栽維持と雑草防除を一体化することで経費削減も可能としました。植物である苔は光合成をするため、また苔の仮根にはCO2が半永久的に固定されるため、CO2の排出抑制にも貢献します。

グリーンズグリーンと東急電鉄は「地下鉄構内未利用空間での苔栽培実証実験」を実施。地下の未利用空間で苔の生育に必要な環境をつくり、地下の湧き水を活用し様々な種類の苔を栽培しました。なお、本プロジェクトは国土交通省の「鉄道脱炭素施設等実装調査」補助制度に採択されています。

本プロジェクトの過程で、地下の湧き水にはマンガンが豊富に含まれていることが判明。苔の光合成にはマンガン(と鉄)が使われるため、地下の湧き水を使えば苔がより早く成長することが期待されます。

苔を地下鉄空間で栽培することで、より効率的にCO2・湧き水排出量が削減できる可能性が出てきました。グリーンズグリーン代表の佐藤さんは「地下駅を苔の栽培工場にして、地下駅の緑化や線路脇・遊休地へ活用するビジネスを、東急から世界へと広げていく」と意気込みます。

▲ グリーンズグリーンの佐藤さん(左)と東急電鉄の東垂水萌乃(右)

● 【二子玉川賞・オーディエンス賞】株式会社弘栄ドリームワークス | パイプ探査ロボット「配管くん」

https://koeidreamworks.jp/
共創企業:東急電鉄

▲ 株式会社弘栄ドリームワークス 営業部営業課 遠藤博人さん

高度経済成長期から2000年代までの建設ラッシュで多くの建築物が生まれたものの、その内部にある設備の寿命は10〜15年ほど。そのため、現在各建築物では設備の保守が課題になっています。とはいえ、保守ができる人材の不足や、設備の一部である配管が図面に記載されていない、図面と実際の経路が異なるといった事情が、設備保守を妨げています。

山形県に本社を置く弘栄ドリームワークスが開発したパイプ探査ロボット「配管くん」は、この可視化されていない配管を見える化することで、上記課題を解決します。配管くんは配管内を移動することで、その内部を洗浄しながら撮影まで実施。また独自の技術が、配管経路の3Dマッピングを実現しています。今後は、AIを活用して配管調査の効率化・図面化を図っていく計画です。

共創パートナーとなった東急電鉄が管理する建築物設備も、経路が不明な配管は少なくありません。そこで両社は、配管くんを用いて東急線駅舎における排水管・雨水管の配管経路調査とCAD化・3D化を実施。これにより異常発生時の迅速な復旧対応、長期的な改修工事計画への貢献、時間・費用の削減といった効果を見込んでいます。今後は上記結果を携え、東急グループ各社が保有している設備全体の配管管理を担っていく考えです。

▲ 弘栄ドリームワークスの遠藤さん(左)と東急電鉄の中野和也(右)

● 株式会社キリンジ | 可搬型木造住宅「モクタスキューブ」を活用したグランピング運営

https://kirinji-corporation.jp/
共創企業:東急建設

▲ 株式会社キリンジ 代表取締役 天川洋介さん

2024年にも能登半島地震がありました。現地には被災生活を強いられている方が少なくありません。被災生活には、長期間に及ぶ暑さや寒さで体調を崩す、プライバシー、インフルエンザ・コロナウイルスの蔓延といった課題があり、災害関連死も大きな問題となっています。

こういった課題に対処しようとしているのが、東急建設が開発した、災害時に応急仮設住宅として活用できる可搬型木造住宅「モクタスキューブ」です。プレハブと同等に1ヶ月で設置可能であり、プレハブとは異なり、現地作業が極端に少なく、また、一般住宅同等の性能、断熱・遮音性が高いといった機能性を備えています。そのようなモクタスキューブの社会的備蓄を増やすため同社は、これを平時にどのように運用させていくか思い悩んでいました。

そこでタッグを組んだのが、宿泊施設のプロデュースや超ローコストオペレーション運営を得意とするキリンジ。同社は無人駅舎を使ったホテル運営や、佐渡ヶ島で無人運営グランピングを運営する実績のある会社です。

キリンジとの協議の結果、客室露天風呂やサウナを設置したユニット連結型の住宅を開発予定。災害時には客室露天風呂やサウナだけを切り離し、風呂やキッチン、トイレを備え付けたユニットだけを被災地に運搬することで、住宅面から災害関連死ゼロを目指します。

▲ キリンジの天川さん(左)と東急建設の関本良平(右)

● 株式会社ReCute | ヘアアイロンシェアリングサービス「ReCute」

https://inc.recute.jp/
共創企業:東急モールズデベロップメント

▲ 株式会社ReCute CEO 山下萌々夏さん

NTTドコモ主催の「docomo STARTUP CHALLENGE2023」発で、現在スピンアウトを目指しているビジネスプラン「ReCute」のプレゼンをしたのは、株式会社ReCute(NTTコミュニケーションズ所属、後日「株式会社ReCute」を設立予定)の山下さん。

女性にとって鏡の前は「戦場」。化粧直しだけでなく髪を巻き直したいと思う女性は少なくありません。彼女らは、ポータブルアイロンは持ち運びが大変、メイクラウンジにわざわざ行くのは面倒といった悩みを抱えており、「いつでもどこでも手軽に髪を巻き直したい」というニーズを抱えています。

ヘアアイロンのシェアリングサービス「ReCute」は、商業施設やオフィスビルなど、日常の導線上の化粧室にヘアアイロンの貸出スポットを設置することで、この課題を解決します。コアターゲットは20代後半〜30代前半の女性。ユーザーに課金し、設置スポットには一部設置料を支払います。将来的には化粧品のテスター提供や広告事業も狙っていく予定です。

東急モールズデベロップメントとは、同社のみなとみらいやたまプラーザの施設で実証実験を実施し、ユーザーニーズを検証。今後のプレリリースも決まっています。これを弾みに、商業施設だけでなく、東急グループの鉄道沿線やオフィスビル、スポーツジムなどでの展開を狙います。

▲ ReCuteの山下さん(左)と東急モールズデベロップメントの徳山裕樹(右)

● stadiums株式会社 | 健康と不健康の間に「かかりつけトレーナー」を。運動の習慣化で健康な街づくりへ

https://stadiums.co.jp/
共創企業:東急スポーツシステム株式会社

▲ stadiums株式会社 代表取締役 社長 大石裕明さん

世界に比べ、日本には圧倒的に運動習慣が根付いていないと言われています。生活習慣病の原因第3位に運動不足が挙がるほど、日本人の運動不足は課題となっているのです。 stadiumsは、一人ひとりが日常の中で運動に取り組みやすい環境を整えていくブランド「THE PERSON」などの運営を通じて、運動を習慣化し、少しでも長く健康が続く社会を目指します。

同社が運営する「THE PERSON」では、場所を借りたいトレーナーと、場所を貸したいジムの空き時間をマッチング。トレーナーはジムを時間制でレンタルジムとして貸切で利用可能です。その中で利用できるのがグループパーソナル。ユーザー複数人でトレーナー1人をシェアし、効率よく運動できるシステムです。ユーザーは仲間がいることでトレーニングの「予約」が友だちとの「約束」へ代わり、運動習慣が自ずと身につきます。実際、THE PERSONの平均継続期間は24ヶ月と長期間に渡っているそうです。

THE PERSONは、東急スポーツシステムが運営するフィットネスジム「アトリオドゥーエ」と協業。両者のセットプランをユーザーに提供したところ、Demo Dayまでの半年間では、セットプランで入会したユーザーの退会はゼロという驚きの結果を実現しています。長期的には、公園やホテル、オフィスビルといった他の東急グループ各社とも連携し、「かかりつけトレーナー×ウェルビーイングな街づくり」を担っていく考えです。

▲ stadiumsの大石さん(左)と東急スポーツシステム 比江島光

なお、2023年度に最も活躍・貢献したTAP参画事業者を表彰する「ベストアライアンス賞」は、フードリボン、グリーンズグリーン、弘栄ドリームワークスの共創パートナーである東急電鉄が受賞しています。

以上、2023年度のDemo Dayに登壇した6社の紹介でした。以下は審査員長である東急株式会社 取締役社長 堀江の総評です。

「審査結果は非常に僅差でした。どれも非常に魅力的な内容で、今後も継続していってほしいと考えています。最優秀賞である東急賞を受賞したフードリボン社の審査上評価されたポイントは、今回の発表にあった東急電鉄との連携に限らず東急グループ各社との幅広い連携が見込まれる点、未利用資源を世界初の水圧による繊維抽出技術によって価値ある繊維に生まれ変わらせることでサーキュラーエコノミーの浸透が図れる点、生産者がこれまで廃棄処分していた農作物の副産物を活用することで農産物生産者に新たな収入を生み出す可能性がある点でした。プレゼンにもあった通り、東急グループでは宮古島でホテル経営や農園運営を行っており、未利用資源を排出している立場でもあります。そちらでもタッグを組み、新しいビジネスに繋げていきたいと思います。」

▲ 審査委員長の東急株式会社 取締役社長 堀江正博(左)と、フードリボンの宇田さん(右)

TAPではスタートアップからの応募を24時間365日受付中!

未利用農業資源を起点にサーキュラーエコノミー構築を目指すフードリボンの東急賞(最優秀賞)で幕を閉じた2023年度のDemo Day。TAPはここから東急グループ各社とのオープンイノベーションを加速させていきます。

TAPでは、随時スタートアップからのエントリーを受け付け、毎月審査を実施しています。詳細はこちらから御覧ください。皆さまからのご応募を、お待ちしています!

(執筆:pilot boat 納富 隼平・撮影:ソネカワアキコ)