東急なら舞台は渋谷に。
イラスト付きで小説が読める「TapNovel」と仕掛けた、IP化コンテスト。
新機能開発にも繋がった協業の舞台裏 | TypeBeeGroup×東急エージェンシー
2023年4月11日
2023年3月に開催された東急アライアンスプラットフォーム(以下「TAP」)2022のDemo Day。最優秀賞である東急賞と、一般視聴者の皆さまからの投票で決まるオーディエンス賞は、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」が受賞して幕を閉じました。
Demo Day当日は、TAPを通じて生まれた協業事例を紹介するべく、株式会社TypeBeeGroup(以下「TypeBeeGroup」)の代表取締役遠藤さんと、株式会社東急エージェンシー(以下「東急エージェンシー」)の髙野がスペシャルトークセッションに登場。協業の舞台裏を紹介してくれました。
TypeBeeGroupが開発するのはゲーム感覚でイラストつきの小説が読める「TapNovel(タップノベル)」。東急エージェンシーと渋谷をテーマにした共同コンテストを開催したり、東急レクリエーションと映画館で朗読劇を開催したりするなど、東急グループと協業してきました。その過程でTapNovelは「音声」の重要さに気づき、新しく機能を開発したり、東急エージェンシーは新たな商材を手にしたりと、両者は協業の手応えを掴みます。
スペシャルトークセッションでは、協業の内容からそこから気づいたオープンイノベーションを成功させるための秘訣まで、遠藤さんと髙野が語り尽くしました。モデレーターはオープンイノベーションのプロフェッショナル集団である株式会社eiicon(以下「eiicon」) 代表取締役社長の中村さんです。
コンテストを共催。渋谷にまつわる413の作品が集まる
中村(eiicon): 本日はDemo Dayのスペシャルセッションということで、TypeBeeGroupと東急エージェンシーの協業の舞台裏を聞いていきます。モデレーターはオープンイノベーションプラットフォーム[AUBA」等を運営しているeiiconの中村です。まずは遠藤さんと髙野さんの自己紹介からお願いします。
遠藤(TypeBeeGroup): TypeBeeGroupの遠藤です。弊社はクリエイターのための次世代原作プラットフォーム「TapNovel」を運営しています。
遠藤(TypeBeeGroup): 近年、エンタメコンテンツとして多くのアニメや映画が登場しています。その原作が小説であるものは少なくありません。とはいえ電子書籍の市場規模でみてみると、売上の88%は漫画で、小説は原作IPとしての影を薄めています。この状況をなんとかしたいと思って、TapNovelの開発を始めました。
TapNovelは、従来テキストで読んでいた小説をビジュアライズし、ゲーム感覚で音声やイラストつきの小説が読めるサービスです。恋愛やファンタジーから、SF、ホラー、本格ミステリーまで毎日沢山のストーリーを配信。ストーリーが視覚で読めるようになっていて、背景や立ち絵、アイテムなどが配置されています。こうすることで、普段なかなか小説を読まない方にも楽しんでいただけるんです。さらにTypeBeeGroupが保有する20万枚のイラストや制作プラットフォームを開放して、スマホ1台あれば絵が描けない人でもビジュアルストーリーを作れるサービスとなっています。
髙野(東急エージェンシー): 東急エージェンシーの髙野です。東急エージェンシーは東急グループの一員であり、総合広告会社でして、私はその中で「0▸1メディアビジネスユニット『no.00(ナンバーゼロゼロ)』」という、メディア企業さんと新たな「0→1」を生み出すための部署に所属しています。
中村(eiicon): それでは遠藤さんから、TypeBeeGroupと東急グループの協業について教えて下さい。
遠藤(TypeBeeGroup): TypeBeeGroupはTapNovelを通して、2020年から東急各社と協業してきました。最初に取り組んだのは、東急エージェンシーとの「人気声優によるアフレコ現場のファン向けライブ配信」です。
このライブ配信自体はもともと東急エージェンシーやLIVEPARKという会社が手掛けていて、そこにTapNovelが原作を提供しました。プロセスエコノミーといいますか、作品それ自体というよりは、その制作過程であるアフレコ現場を生配信して、ファンに楽しんでいただくことを目的として実施しています。ちなみにここで収録した音声はその後、TapNovelでも配信しました。
この取組みが一定の成功を収めたこともあって、今度は東急エージェンシーと原作IP、つまりオリジナル作品の開発に取りかかっています。「東急と言ったら渋谷だろう」ということで、「渋谷」をテーマに据えコンテストを開催しました。
髙野(東急エージェンシー): 東急エージェンシーは渋谷スクランブル交差点のビジョン広告や東急線の車内ビジョンを活用して、このコンテストを大々的にプロモーションしました。その結果、413件もの作品が応募されてきたんです。ここで受賞した作品は読み切りだったので、TapNovelさんに文庫本程度の作品に長編化していただき、最終的に小説として世の中に配信しました。
遠藤(TypeBeeGroup): 余談ですがこのコンテストがきっかけとなってものすごくライターさんが集まって、後にTapNovel成長のきっかけになったので、そういう面でもこの協業はありがたかったです。
髙野(東急エージェンシー): そう言っていただけると嬉しいですね。
遠藤(TypeBeeGroup): また東急レクリエーションとは、映画館の新しい活用方法に挑戦しようということで、109シネマズ二子玉川で声優による朗読劇を開催しました。「受賞作にはこの人気声優さんがアフレコします」という形で作品を募集し、実際に受賞した作品を映画館で朗読劇を開催したんです。こちらもアフレコした作品はTapNovelで配信しました。
共同アフレコイベントで価値を認識。音声機能を強化へ
中村(eiicon): 色々な協業を重ねていますね。両社の出会いはTAPだったと聞いていますが、どうして髙野さんはTapNovelに可能性を見出したのでしょうか。
髙野(東急エージェンシー): 最初にTapNovelの話を聞いて、個人的にとても興味を持ちました。といっても当時はコロナ禍ということもあって、いきなり大きく仕掛けるのは難しかったんです。それでちょうど先程のLIVEPARKさんとライブ配信に関する実証実験をしていたので「ここでご一緒できたら面白いな」と思いつきました。遠藤さんに相談したら「ぜひ」とのことだったので、とりあえずやってみようと。
遠藤(TypeBeeGroup): 最初に髙野さんと話したときのこと覚えてますよ。最初オンラインでミーティングしたのですが、その冒頭で数分お話しして、プロセスエコノミーやIPに理解が深くて印象に残っています。
中村(eiicon): それですぐにライブ配信の話になったんですね。
遠藤(TypeBeeGroup): そうですね。とりあえず実証実験としてやってみないかと提案いただいて、即答しました。それで2週間後にはもう配信していたので、そのスピード感に驚いたのを覚えています。
中村(eiicon): ちなみに、実証実験中の契約はどのようにされていたのですか?
髙野(東急エージェンシー): まだ実証実験で両社の役割も明確じゃなかったので、細かい契約は交わしていません。大事なことだけお互いに共有し、決めて走り出しました。
中村(eiicon): ライブ配信やコンテストは何を目標に据えていたのでしょうか。
髙野(東急エージェンシー): ライブ配信もコンテストも実証実験だったこともあって、細かい数字ではなく「熱量がどれぐらい生まれるのか」「何に事業としての可能性があるのか」といったことを見極めたいという話をしていました。
遠藤(TypeBeeGroup): そうですね。実証実験で僕たちは色んなデータを取りまくっていたんです。収益的に成功・失敗というよりは、データがどう動くのか、それで次のアクションにどう繋がるのかを見ていました。
例えばアフレコの件なら、通常バージョン(アフレコがないバージョン)とアフレコありのバージョンを同時に配信すると、圧倒的にアフレコバージョンの方が読了率が高いんです。当時はTapNovelに音声機能はなかったのですが、この結果を受けてBGMや効果音、自分でボイスを入れられるようにしたりと、音声関連の機能を開発しました。
髙野(東急エージェンシー): 東急エージェンシーとしても、オリジナルIPの開発に繋がったりと、事業開発の機会に繋がっています。こういった補完関係がある出会いがあることこそ、東急アライアンスプラットフォーム始め、オープンイノベーションのメリットですね。
中村(eiicon): 今回の協業を通して、社内外の評価は変わりましたか?
遠藤(TypeBeeGroup): TapNovelは社外から、特にユーザーからの見え方が明確に変わりました。スタートアップで全く知らない会社がやっているサービスだったのに、そこに東急という名前が入ったことで一気に会員が増えたんです。協業する前はリリースして半年ぐらいの時期でライターが1000〜2000人だったのですが、今はもう1万人登録いただいていますからね。非常に大きな影響がありました。
髙野(東急エージェンシー): しかもTapNovelはアクティブユーザーが多いんですよ。みんなずっと書き続けている。TapNovelには実はこれから火がつくコンテンツがもう存在していて、あとはそれをどう育てるかが重要という段階に来ていると思います。
遠藤(TypeBeeGroup): 評価という意味では、ユーザーだけでなく企業にも及んでいます。つまり、東急とのコラボを見て、他の企業からもお声掛けいただいているんです。おかげさまでTapNovelのホームページにはコラボした大手企業のロゴが並ぶようになりました。それでまたライターや作品が増えてまたコラボに繋がって……と、東急との協業を皮切りに好循環が生まれています。
髙野(東急エージェンシー): 評価とはちょっとニュアンスが違いますが、東急エージェンシーの中で実際にクライアントと接しているメンバーが、TapNovelとの取り組みをタイアップ案件として紹介していて、その反応がいいと聞いています。クライアントが自分たちでコンテストを開催してIP化するのは大変なので、そこをTapNovelに任せられる仕組みが作れたらWin-Win-Winの関係になれる。「TapNovelとコンテストを開催してよかった」と一過性のもので終わらず、継続的な取り組みになっているのはいいことですね。
遠藤(TypeBeeGroup): 当社は営業担当が僕しかいないので、紹介いただけるのは助かっています(笑)。
髙野(東急エージェンシー): (笑)。普通に広告商材を販売すると、どうしても金額や内容、枠組みを従来から大きく変えることは難しいのが現実です。しかしTapNovelを組み込んだ提案だと、クライアントと一緒に事業開発しているかのようになる。これがクライアントと新たな関係を築くいい機会になっていますね。
大企業はやりたいこととやれることを明確に。スタートアップにその穴を埋めてもらう
中村(eiicon): 最後に、今回の協業で学んだオープンイノベーションにおいて大切なポイントを教えて下さい。
遠藤(TypeBeeGroup): まずはPDCAをちゃんと回すことが大事です。スタートアップは特にそうだと思いますが、どうしても最初から事業は上手くいかない。その時にどう修正していくかというのが非常に重要です。
例えばTypeBeeGroupの場合、IT企業なので色んなデータが取れるため、それを元に1回目はこうだった、じゃあ2回目はこうしようという話を協業企業とも最初からするようにしています。
中村(eiicon): PDCAについて伺いたいのですが、外部企業と課題感を共有するのは大変だと思うんです。例えばどれくらいの頻度でミーティングしていましたか?
髙野(東急エージェンシー): 定期的というより、常にチャットで連絡しあっていましたね。「最近こうしてます」という連絡をお互いしているイメージです。
遠藤(TypeBeeGroup): コンテスト中など活動がアクティブなときは特に頻繁に連絡を取り合っていました。それ以外の期間も、普段から「こんな面白い作品があった」なんて話をして、コミュニケーションをとっています。
髙野(東急エージェンシー): オープンイノベーションにおいて大切なポイントという意味では、価値観や目指すべきものがお互い明確になっていることが大切かと思います。
遠藤さんがTapNovelをなぜ作っているかというと、日本が世界に誇れるコンテンツを生み出す場所を作りたいという思いがあるからです。それを応援したかったから私としても今回の協業に踏み切りましたし、会社としてもIPを生み出して保有することには価値を見出だせるので、GOサインが出ました。
でも、遠藤さんは別にIPを独占したいと思っているわけじゃないんですよ。遠藤さんがやりたいのは、コンテンツを生み出す場所づくり。東急エージェンシーがやりたいのはIP作り。その2つのやりたいことが明確だから「じゃあこういうことをやろう」という話ができた。お互いの目指すべきものというものが共感・共有できると協業は進みやすいと思います。
中村(eiicon): それは本当に大事ですよね。受発注にならない関係性というのは、それぞれビジョンがあって、それを共有して、それを目指すうえで手を組めるかどうかだと思います。
遠藤(TypeBeeGroup): これはスタートアップとしての立場からですが、近年、大手企業がアクセラレーションプログラムをはじめとして、スタートアップとの関わりを強めていますよね。ですが大手企業各社もボランティアでやっているわけじゃないので、スタートアップは「いかに稼ぐか」まで視座を高めて提案しないと上手くいかないと思っています。
つまり、自分たちのビジネスがあって、協業相手にもビジネスがあって、いかにこの2つを組み合わせて新しいビジネスができるか。それを考えないといけません。少なくとも僕はそれを意識して、東急側は何をしたいのか、当社に求めるものは何かを細かくヒアリングさせてもらっていました。
髙野(東急エージェンシー): そういう意味では、大企業側は自分たちにやれることを明確にして、足りないピースをスタートアップに埋めてもらったほうがいいのかもしれません。
髙野(東急エージェンシー): 今回の例で言えば、「世界中でもシンボルになるような渋谷のスクランブル交差点で自分の作品が紹介できるというのは、クリエイターのモチベーションになれるはず」という狙いは明確にしていて、クリエイターや作品の募集、IP化はTypeBeeGroupさんの力をお借りしようと思っていました。
自分たちの会社の得意技を最初に提示して、それにメリットを感じてもらえるのであれば、足りないところをスタートアップを中心にスピード感と対応力と機動力をもって埋めてもらう。実際、遠藤さんにはそう対応いただいたと思っています。
中村(eiicon): ありがとうございます。今日はオープンイノベーションの大事なポイントがたくさん出てきました。目的・ビジョンをしっかり共有して、お互いのリソースをシェアして補完し合い、オープンイノベーションを達成する。こうした事例がTAPという国内老舗のオープンイノベーションプログラムから出てきているとは大変興味深かったです。ありがとうございました。
遠藤(TypeBeeGroup)・髙野(東急エージェンシー): ありがとうございました。
(text: pilot boat 納富 隼平、photo: taisho)