TAP2022 Demo Day Report
最優秀賞は「クラダシ」。リアルとオンラインの共創でフードロス削減に挑む

2023年3月28日

「共に、世界が憧れる街づくりを。」をコンセプトに掲げる東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)は、2022年度の総括となるDemo Dayを2023年3月に開催しました。

TAPに参画する東急グループの事業者は年々増加し、2022年度は29事業者(22社)が参加。「交通」「ヘルスケア」「「百貨店・スーパー・ショッピングセンター」等19の事業領域で協業を実現しています。またTAPでは、各領域の課題・ニーズ、将来像を可視化し、HPで随時発信し、スタートアップが応募しやすい体制を整えてきました(詳細はTAPのHPからご覧ください)。

協業ニーズの例

2022年度実施に至った協業件数は20。累計で応募数992件、協業件数114件、事業化・本格導入は38件、業務・資本提携は8件を数えるまでになりました(TAP事務局が連携する外部プログラム等をきっかけとした案件を含みます)。

今回のDemo Dayでは5社が登壇し、3名の社外審査員を含む5名が共創案を審査。「新規性」「成長性」「親和性」「(将来像の)蓋然性」という観点から定量評価を行い、定性的な観点を加えて総合的に審査しています。またライブ配信をご覧いただいた方々からの投票でオーディエンス賞も選出しました。

【社外審査員】
・SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長 加藤 由紀子 氏
・株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当 岸 裕一郎 氏
・デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 Morning Pitch運営統括 永石 和恵 氏

【社内審査員】
東急株式会社 取締役社長 髙橋 和夫(審査員長)
東急株式会社 常務執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 東浦 亮典

▲ 昨年まではコロナ対応で審査員はオンライン参加でしたが、今年は会場に集合して審査を行いました。

それでは登壇・受賞した5社を紹介していきます。

●【東急賞(最優秀賞)・オーディエンス賞】株式会社クラダシ|Kuradashi

https://corp.kuradashi.jp/
共創企業:株式会社東急モールズデベロップメント【ベストアライアンス賞】

▲ 株式会社クラダシ 経営戦略室 室長 築地 雄峰さん

最優秀賞である東急賞と、一般視聴者の皆さまからの投票で決まるオーディエンス賞を獲得したのは、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営するクラダシ社です。

日本では年間522万トンのフードロスが発生していると言われています。これは国民全員が毎日茶碗1杯の米を捨てるのと同量の計算です。クラダシ社は、まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう可能性のある商品等をお得な価格で販売し、売上の一部を環境保護・災害支援等に取り組む様々な団体に寄付できるショッピングサイト「Kuradashi」を運営。フードロスをはじめとした社会課題の解決に向け、持続可能な社会の実現を目指しています。

Kuradashiの寄付先の1つである「クラダシ基金」は、地方創生事業、フードバンク支援事業、教育事業、食のサステナビリティ研究会などの社会貢献活動に充てられてきました。また、クラダシ基金を活用した社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」では、農家に学生を派遣。フードロス問題や地方創生に興味関心のある学生が日本全国の地域・農家へインターンとして訪れ、作物の収穫支援や現地での交流を通して一次産業や地域経済の活性化について考える取り組みを行うなど、様々な角度からフードロス問題の解決を目指しています。

しかし国内の食品EC比率は3%台と言われており、オンラインだけではフードロス削減の効果も限定的であることも事実です。そこでクラダシと東急モールズデベロップメントの協業では、オフラインの場でのフードロス削減を目指し、KuradashiのPOPUP SHOPを展開しています。開催は7回を数え、延べ62日、5万点以上の商品を販売しフードロスを削減。季節商品であるバレンタイン商品のロス削減を目指したイベント等も開催し、注目を集めました。

2023年5月下旬にはKuradashi初の常設店舗をたまプラーザ テラスにオープン予定。店舗内で達成したフードロスやCO2の削減量を可視化したり、フードロスに関する啓発イベントや、学べる体験型のイベントなどを開催していく予定です。

最優秀賞である東急賞を受賞したのはこのクラダシ社。審査員長の髙橋は以下のようにコメントしています。「東急、そして日本の小売業は欠品を許さない文化で、結果的にロスになってでも多めに仕入れしてきた歴史があります。フードロスを考える時代においてはお客さまの理解を得てこのような文化も変えていかなければなりませんが、そう簡単にはいきません。とすればクラダシのようなソリューションもフードロス削減の一つ。期待しています。」

今後のクラダシ社と東急グループの協業に期待です。

▲ 東急モールズデベロップメント鹿島夏希(左)とクラダシ築地さん

なお、2022年度最も活躍・貢献したTAP参画事業者を表彰するベストアライアンス賞も東急モールズデベロップメントが受賞しています。

● 【渋谷賞】株式会社アジラ|AI警備システム「アジラ」

https://www.asilla.jp/
共創企業:東急セキュリティ株式会社

▲ 株式会社アジラ 執行役COO プロダクト事業本部 本部長 兼 営業部長 尾上 剛 さん

準優秀賞である渋谷賞に選ばれたのはアジラ。世界トップクラスの行動認識AIを使って社会課題解決を目指すアジラはAI警備システムを開発しています。現在設置されている防犯カメラの映像をAIが解析することで、不審・異常行動を検知したらリアルタイムで通知し、早期対応を促すことが可能。他にも喧嘩・暴力、転倒、ふらつき、侵入、長時間滞留なども検知可能で、違和感行動の検知については特許も取得しています。

アジラは東急セキュリティと、東急電鉄渋谷駅内の防犯カメラを使い、駅構内でのお客さま同士のトラブルや急病人・異常行動の予兆などを検知する実証実験を実施。利用客の転倒を検知する等、一定の成果を収めました。

今後は行動認識AIを東急グループの他の領域へ展開することも検討します。小売店での万引き予兆検知や防犯機能の強化に加え、人数カウント、動線分析、棚前分析、属性分析等のマーケティング分析も担える可能性がありますし、駅では早期に白杖・車イスをご利用のお客さまを検知することで、スピーディなサポート体制が敷けるかもしれません。人とAIが協力することで、東急沿線を安心・安全で快適に暮らせる街にすることを目指します。

▲ 東急セキュリティ佐藤達志(左)とアジラ尾上さん

● 【二子玉川賞】ノウンズ株式会社|Knowns Biz

https://biz.knowns.co.jp/
共創企業:株式会社東急エージェンシー

▲ ノウンズ株式会社 代表取締役 田中 啓志朗 さん

簡単な操作で誰でも高度な分析が可能な消費者データ分析プラットフォーム「Knowns Biz」を提供するノウンズが二子玉川賞に輝きました。Knowns Bizでは例えば「ビール」と検索すれば、市場で販売されているビールや好感度、ビールと相性のいいタレント等を検索できる機能を備えています。

Knowns Bizは、ユーザー全員が使える「共有データ」に加え、企業独自のデータをかけ合わせることも可能です。東急エージェンシーとはこの独自データを活かした協業、すなわち、東急エージェンシーが開発した独自のマーケティング手法と、ノウンズがもつデータを掛け合わせ、データ取得から分析までをクラウド上で行える新サービスの共同開発を手掛けました。「DaaS (Data as a service) を使い、高度でインタラクティブなデータ分析サービスにしていきたい」と、ノウンズの田中さんは意気込みます。

▲ 東急エージェンシー大倉新也(左)とノウンズ 田中さん

● 【SOIL賞】SUSHI TOP MARKETING株式会社|トークングラフマーケティング

https://www.sushitopmarketing.com/
共創企業:東急電鉄株式会社

▲ SUSHI TOP MARKETING株式会社 CEO 徳永 大輔 さん

NFTマーケティングに特化したブロックチェーンスタートアップであるSUSHI TOP MARKETING。NFTはリアル体験やゲームアイテム、チケットやクーポンなど多様な価値をインセンティブとしてユーザーに配布でき、ユーザーとの新たなタッチポイントを創造できる可能性がありますが、NFTを保有するために必要なウォレットの普及率は5%以下。まだまだNFTが世に幅広く受け入れられているとは言い難い状況です。

しかし、SUSHI TOP MARKETINGの特許出願中の技術であるブラウザウォレットを使えば、アカウントレスでのNFT配布が可能になります。

そこで東急電鉄との協業では、2023年3月18日に開業する東急新横浜線開業を記念した限定デザインNFTを現地・オンラインで無償配布することにしました(編注:本Demo Dayは3月14日に開催されたので、Demo Day後に配布予定)。「将来的には他の機会でもNFTを付与していき、NFTホルダーを可視化して、ロイヤルティが高い人や、鉄道ファンが東急沿線を回遊できるような施策を実行したい」とSUSHI TOP MARKETINGの徳永さんは語ります。

▲ 東急電鉄 荒居孝之(左)とSUSHI TOP MARKETING 徳永さん。普段は運転士である荒居は制服で事業共創ピッチをしました。

● 【SOIL賞】AXELL株式会社|TRIAD謎解き

https://axell.tokyo/
共創企業:東急株式会社

▲ AXELL株式会社 代表 大谷 宜央 さん

近年世界的な盛り上がりを見せる「リアル謎解き」。その市場は世界で5000億円、国内でも400億円にも達しているそうです。

そんな中AXELLが仕掛けるのはARとIoTをかけ合わせた「TRIAD謎解き」。特定の場所に行くとARで謎のヒントが表示されたり、謎を解くと現実世界の宝箱が開いたりと、リアルとバーチャルを融合させた謎解体験が味わえます。

2022年9月、東急グループは100周年を迎えました。
東急とAXELLはこの100周年記念に関連した謎解き「時の魔女と100の約束」を渋谷および東急線沿線で実施。謎解きを通じた移動需要創出、コト消費をフックとした会員化等を見込みます。今後は引き続き、謎解きによる会員獲得、街の周遊、ユーザー分析等、リアルとデジタルの融合によるさらなる顧客体験価値を提供していく予定です。

▲ 東急(株)の溝渕(左)とAXELLの大谷さん

先述したように、最優秀賞である東急賞はクラダシが受賞しました。以下は審査委員長である髙橋の総評です。

「東急グループの強みはリアルですが、デジタルを上手く融合することでビジネスに幅が出てきます。少しずつ失敗しながらも前に進むのが大事。TAPのような機会を通じて東急グループもデジタルを活用した取り組みに挑戦します。Demo Dayは終わりではなくスタートですし、そもそもイノベーションには終わりがありません。今後は、これまで注力してきた既存事業の課題解決に加え、事業創造にも注力してオープンイノベーションを活用してまいります。これからのTAPもご期待ください。」

TAPではスタートアップからの応募を24時間365日受付中!

フードロスを削減するクラダシの東急賞(最優秀賞)で幕を閉じた2022年度のDemo Dayですが、髙橋が語るように、東急グループのオープンイノベーションはこれで終わりではありません。TAPでは、他のアクセラレートプログラムとは異なり、随時スタートアップからのエントリーを受け付け、毎月審査を実施しています。詳細はこちらから御覧ください。皆さまからのご応募を、お待ちしています!

(執筆:pilot boat 納富 隼平・撮影:taisho)