TAP2021 DemoDay Report
最優秀賞は冷凍技術とITでパン屋の商圏を拡大する「パンフォーユー」。サステナブルと地域の活性化で東急グループ4社と共創を実現
-TAPの協業実績は100件を突破!-

2022年3月31日

「共に、未来が憧れる街づくりを。」をコンセプトに掲げ開催している東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)。2021年度の総括となるDemo Dayを2022年3月に開催しました。

TAPに参画する東急グループの事業者は年々増加し、2021年度は27事業者(19社)・19領域を対象とするに至っています。各領域の課題・ニーズ、将来像を可視化し、HPで随時発信し、スタートアップが応募しやすい体制を整えています(詳細はTAPのHPからご覧ください)。

「実施」した協業件数は昨年度の2倍以上となり(2020年度15件 → 2021年度35件)、累計では105件、事業化・本格導入は32件、業務・資本提携は8件を数えるまでになりました(TAP事務局が連携する外部プログラム等をきっかけとした案件を含みます)。

今回のDemo Dayでは3名の外部審査員を含む5名が共創案を審査。審査項目は「新規性」「成長性」「親和性」「(将来像の)蓋然性」という観点から定量評価を行い、定性的な観点を加えて総合的に審査しています。ライブ配信形式での開催に伴い、今年はオーディエンス賞を復活させました。

【外部審査員】
・グローバルIoTテクノロジーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長 安達 俊久 氏
・SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長 加藤 由紀子 氏
・Spiral Capital シニアアソシエイト 立石 美帆 氏

【東急審査員】
・東急株式会社 取締役社長 社長執行役員 髙橋 和夫(審査員長)
・東急株式会社 執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 東浦(とううら)亮典

▲ 審査員はオンラインで参加しました

● 【東急賞(最優秀賞)】パンフォーユー|パンスク

▲ 株式会社パンフォーユー 取締役 山口 翔さん

最優秀賞となる東急賞を受賞したのは、地域のパン屋と消費者を独自の冷凍技術とITでつなぐプラットフォームを開発するパンフォーユー社でした。現在は約100のパン屋と提携し、冷凍とITでパン屋の商圏を拡大しています。

代表的なサービスは、自宅に全国のパン屋のパンが届く定期便「パンスク」。国際特許も出願しているパンの冷凍技術を用いることで、パン屋は設備投資なしで、お店でのおいしさそのまま、パンを全国の消費者へ届けられるようになります。

東急グループとの共創コンセプトは「サステナブルな社会の実現」と「地域の活性化」。2021年5月には東急電鉄が提供する環境配慮型サブスクリプションサービス「TuyTuy」で、利用者に対するクーポンを配布。冷凍パンが広まれば廃棄が少なくなることをアピールし、利用者へ訴求しました。

またパンスク以外の法人向けサービスでも、共創を実現しました。東急レクリエーションとは、2021年10月から109シネマズ川崎にて全国のパン屋から仕入れたパンを販売。冷凍パンなので、映画館の在庫問題の解決にも繋がっています。東急グルメフロントは、2021年12月からパンフォーユーが提供するオンラインギフトサービス「全国パン共通券」を導入。東急リゾーツ&ステイは、2022年2月から東急ステイ用賀で宿泊者向けに、冷凍パンとスープの提供をトライアルスタートしました。

審査員からは「パンフォーユーの独自の冷凍技術によりパンの賞味期限が長くなり、食品ロスが削減される」「パンを焼く時間を選ばないため働き方改革に繋がる」といったサステナブルの観点が東急との親和性も高いと評価されたとのことです。おめでとうございます!

▲ (左から)東急電鉄 小島 光昭、パンフォーユー 山口さん、東急レクリエーション 小俣 明徳、東急リゾーツ&ステイ 前澤 希

● 【渋谷賞】株式会社ウゴトル|ウゴトル for Lesson

▲ 株式会社ウゴトル 代表取締役社長 西川 玲さん

渋谷賞を受賞したのは、動きの「学ぶ」「伝える」をテクノロジーで支援する「ウゴトル」です。例えば(今回共創の対象となった)水泳指導において、グループレッスンでは個別に指摘が受けられず、口頭による指導では生徒が自分の状態や指摘がわからないといった課題がありました。指導者側も、指導が属人的で記憶頼みになってしまうという課題を抱えています。

その点ウゴトル for Lessonを使えば、既存の指導に短期間の撮影と個別の動画添削・配信を追加することで個別の映像指導を実現できます。あらかじめ決められた指導内容(「最後まで水を掻ききりましょう」等)を選択し、動画の該当箇所に配置するだけで作業は完了です。コーチが動画を配信したら、生徒はすぐに自分のスマホで指導内容を確認できることも嬉しいポイントです。

東急スポーツシステムとの共創では、スポーツ指導の現場におけるDXに取り組みました。2021年2月からの東急スイミングスクールあざみ野での実証実験では、生徒が自分の映像を確認することによるメタ認知の向上、成長の見える化に成功。その結果を活かして開発を進め、「オンラインスイミングレッスン」としてサービス提供を開始。これまで会員約100名に提供し、映像指導を体験した生徒と保護者から、高い継続率と満足度を記録しています。今後は利用店舗の拡大と、他スポーツへの展開を目指します。

▲ ウゴトル 西川さん(左)と、東急スポーツシステム 植木 康広

● 【二子玉川賞】エヴィクサー株式会社|字幕メガネ・音響通信

▲ エヴィクサー株式会社 事業本部 研究開発部 部長 徳永 和則さん

二子玉川賞に輝いたのは、音のテック企業であるエヴィクサーです。音を使って同時に大人数へデータを送れる独自の音響通信技術を開発しています。その技術を応用したのが、映画の音と連動したバリアフリー字幕をスマートグラスにAR表示する「字幕メガネ」です。

字幕は音と連動させているので、タイミングのズレがないことがポイント。聴覚障害者は健常者と一緒に映画を楽しむことが難しいケースも多々あり、そもそも映画館に足を運ぶことが少なかったという方も多いそうです。しかし字幕メガネを使えば家族や友達と一緒のタイミングで映画を楽しめると、聴覚障害者の方に歓迎されています。

今回エヴィクサーは109シネマズと協業し、順次映画館に字幕メガネを導入。2021年11月には全館への導入が完了しました。現在では109シネマズのどこでも、耳の不自由な方が、スマホやスマートグラスを持ち込んで映画を楽しめるようになっています。今後は字幕メガネだけにとどまらず、映画館を訪れたお客さまへのNFTの配布に独自の音響通信技術を活用する企画など、音のインターフェースを活用した様々な取り組みを検討しています。

▲ エヴィクサー 徳永さん(左)と、東急レクリエーション 新井 正道

● 【オーディエンス賞・SOIL賞】株式会社ロスゼロ|ロスゼロ

▲ 株式会社ロスゼロ 代表取締役 文 美月さん

作り手と食べ手をつなぐ食品ロス削減プラットフォーム「ロスゼロ」や、余剰分の食品が発生するタイミングで商品が届く「ロスゼロ不定期便」を展開するロスゼロ社。国内で年間570万トンにも及ぶ食品ロスの削減に取り組みます。

ロスゼロの特徴は単にロス食品を販売するのではなく、ロスになってしまった理由やメーカーの想いを発信したり、アップサイクルすることで付加価値を商品に与えていることです。

東急とはまず、大井町のPARK COFFEE店舗にて、ロスゼロ商品の販売会を2021年に実施。好評を博したことから、2022年2月から店舗でロスゼロ不定期便の受付を開始しました。加えて、東急百貨店が2022年5月に渋谷本店で開催予定のお得意様向けイベントへのポップアップ出店も決定。ロスフード、アップサイクル品の販売、ロスゼロ不定期便の受付、ロス問題の啓発等を実施し、新しい消費の在り方をロスゼロと東急でアピールしていきます。

▲ 左から東急 熊田 雄介、ロスゼロ 文さん、東急百貨店 橋本 崇顕

● 【SOIL賞】ユカイ工学株式会社|BOCCO emo

▲ ユカイ工学株式会社 代表取締役 CEO 青木 俊介さん

コミュニケーションロボットを通して日々の生活を優しくより豊かにするウェルビーイングな社会の実現を目指すユカイ工学。家庭向けのロボットとして「BOCCO emo」を展開しています。外出中のパパ・ママが自宅の子供とやりとりできたり、高齢者向けに薬のリマインダーを出したりと、BOCCO emoはスマホの利用が難しい方向けを中心に活躍しています。

東急百貨店とは、コミュニケーションロボットを活用した顧客との新たな接点づくりに取り組みました。まずは2021年9月に渋谷本店での外商お得意様向けフェアにてポップアップショップを実施。非接触で接客を実施し、好評を博しています。2022年4月にはBOCCO emoを使った外商員とお得意様のコミュニケーションに関する実証実験を実施していきます。「桜フェアを東急百貨店でやっているよ!」等とBOCCO emoが生活の中でコミュニケーションをとることで、生活の中でさりげなく東急百貨店をアピールしていきます。

▲ ユカイ工学 青木さん(左)と、東急百貨店 小林 洋介

● 【SOIL賞】株式会社MOVE|D2C支援事業

▲ 株式会社MOVE 取締役COO 倉田 達也さん

「クリエイティブ×テクノロジーで小売を変革する」をミッションに、デジタルを駆使した独自スキームの無在庫型D2C自社ブランドとSNSマーケティング支援事業を展開するMOVE。ユーザーに反響のあるSNSコンテンツを作るため、SNSの分析ツールを自社開発し、その分析結果を生かした独自D2Cブランドを展開しています。

国内で一定の成果を出したMOVEが、次の舞台に選んだのは香港。香港は関税がかからなくてテストマーケティングしやすいのが魅力です。東急モールズデベロップメントと共同で、香港に進出したいD2Cブランドの支援をします。第一弾として2022年4月からMOVEの自社ブランドを進出させ、ゆくゆくは他社のD2Cブランドの進出も支援していきます。将来的には香港ブランドの日本展開も支援したいと、倉田さんは意気込みます。

▲ MOVE 倉田さん(左)と、東急モールズデベロップメント 河合 徹

● 【SOIL賞】株式会社和空プロジェクト|宿坊創生プロジェクト

▲ 株式会社和空プロジェクト 企画部 岩本 健治 さん

社寺隆昌をミッションに掲げ、寺社の門前宿を運営する和空プロジェクト。後継者問題等の社寺の課題を解決し、ひいては文化・歴史の承継といった社会課題の解決に繋げると意気込みます。

そんな和空プロジェクトと東急電鉄の共創は「東急線”花”御朱印めぐり」。中目黒駅の駅員発のアイデアによるコラボプロジェクトです。東急線51の寺社が参加し、2022年4月から半年間実施する予定です。オリジナルデザインの乗車券・御朱印帳のセット販売と、東急電鉄全8路線の沿線にある51か所の寺社の協力のもと、各寺社への訪問時に特別御朱印がもらえるイベントを実施予定です。

手と口を清めるために設けられた水場・手水舎に、色とりどりの花を浮かべた花手水を展開する等、単なる寺社仏閣巡りにならないような工夫も凝らします。

▲ 和空プロジェクト 岩本さん(左)と、東急電鉄 千葉 和士

ちなみに東急電鉄の千葉は、普段は現役の中目黒駅の駅員。ということで、駅員スタイルで共創背景の1分ピッチを行いました。

● 【SOIL賞】株式会社TypeBeeGroup|TapNovel

▲ 株式会社TypeBeeGroup 代表取締役 遠藤 彰二 さん

2021年の邦画の上位20作品の内、80%にあたる16作品が原作のある作品でした。ここからもIPが重要になってきていることが窺えます。しかし小説は原作IPになりやすいものの、スマホではなかなか読まれないことが課題です。

そこで登場するのが、ゲーム感覚でイラストつきの小説が読めるサービス「TapNovel」。小説でも漫画でもない「ゲーム小説」という新しいフォーマットで、背景、キャラクター、アイテム、挿絵等のイラストを使いながら、ビジュアライズされた小説を楽しみます。ビジュアルがあることで、作品の読了率はぐっと高くなることが特徴です。「TapNovelを使って、スマホからIPを拡大していく」と遠藤さんは意気込みます。

東急エージェンシーとの実証実験ではまず、2021年9月にTapNovelのIPを使ったライブ配信イベントを行いました。TapNovelの作品に対し、人気声優がアフレコを実施。その現場をファンに配信しました。収録した作品は、音声なしの同作品と比較し、読了率が約9%もアップしており、新たな価値の創出が窺えます。2022年1月からは東急エージェンシーと共同で、渋谷をテーマにひと駅で読めるショートストーリーを募集する「第1回ひと駅Novelコンテスト」を開催。なんと413件の応募がありました。2022年7月には、最優秀作品の紹介映像を渋谷スクランブル交差点の大型ビジョンや東急線の電車内ビジョンにて放映します。更には、2022年3月からは「第1回『キュンとする話』コンテスト」を実施。受賞作品は副賞として、2022年10月に東急レクリエーションが運営する109シネマズにて人気声優による朗読劇を行います。

今後は東急グループとTapNovelで原作IPを共同開発したり、東急エージェンシーとオリジナルのコンテストスキームを開発する予定です。コンテストでIPの種となるストーリーを発掘し、受賞作品を育成していきます。

▲ 左から東急エージェンシー 髙野 洋、TypeBeeGroup 代表取締役 遠藤さん、東急レクリエーション 小俣

● 【SOIL賞】株式会社3rdcompass|エドノイチ

▲ 株式会社3rdcompass 代表取締役CEO 木村 幸太郎さん

生産者の販売配送を支援するバーチャルオンラインアンテナショップ「エドノイチ」を展開する3rdcompass。生産者が抱える業務・配送・販路といった課題を物産展のDXで解決します。

コロナ禍を経て、物産展が以前のように盛り上がるかはわかりません。なので今後の物産展では、購入者のデジタルシフトと、オンラインマーケットの融合が必要になります。いわば地域物産DXです。オンラインでは作り手の想いや、オススメの食べ方を掲載する等の工夫を凝らします。

東急百貨店との事業共創第1弾では、2022年4月から「東急百貨店ネットショッピング」内にて広島の産直品を集めたオンライン物産展を開催します。広島ホームテレビと共同で集めた商品の動画コンテンツなどを用いてネットショップ上で魅力を表現することで、リアル店舗のような臨場感と新たな購買体験を提供します。第2弾以降は、東急百貨店の実店舗でもデジタルサイネージなどを駆使した物産展を展開する予定です。オンライン上ではサイズや品質、味や鮮度がわからないという弱点を実店舗でのポップアップも融合させていくことでケアします。その後は常時取り扱いも検討していくことで、魅力ある地域産品の首都圏への進出スキームの構築を目指します。

▲ 3rdcompass 木村さん(左)と、東急百貨店 小林さん

● 【ベストアライアンス賞】東急レクリエーション

最後に、2021年度のTAPで最も活躍・貢献したTAP参画事業者を「ベストアライアンス賞」としてTAP事務局より選出しました。今年度の受賞は東急レクリエーションです。3件のDemoDay登壇案件の他にも、多くの実証実験や本格展開に至った案件も創出したことが決め手となりました。

▲ ベストアライアンス賞を受賞した東急レクリエーションの小俣

なおDemoDayでは各社のピッチの後に、特別セッションとして2017年度TAP東急賞(最優秀賞)のWAmazingと、東急交通インフラ事業部の共創事例に関するトークセッションを開催しました。こちらのレポートは後日公開予定です。

▲ トークセッションに登壇した東急 溝渕 彰久(左)と、WAmazing 代表取締役 CEO 加藤 史子さん
▲ Demo DayはすべてTAPとSOILのスタッフが手作りで配信しました

TAPではスタートアップからの応募を24時間365日受付中!

2021年度の東急賞(最優秀賞)に輝いたパンフォーユー。「スタートアップと大企業、両社の課題を共に解決していくことが大事」だと受賞の言葉を語ってくれました。

TAPは、他のアクセラレートプログラムとは異なり、随時スタートアップからのエントリーを受け付け、毎月審査を実施しています。詳細はこちらから御覧ください。皆様からのご応募を、お待ちしています!

text: pilot boat 納富 隼平