東急アクセラレートプログラム2020 Demo Dayを開催
東急賞は障害のあるアーティストと文化をつくるヘラルボニー

2021年4月16日

「スタートアップと共にワクワクする街づくりを」というコンセプトで、2015年から開催している東急アクセラレートプログラム(以下「TAP」)。第6期・2020年度の総括となるDemo Dayを2021年3月に開催。Shibuya Open Innovation Lab(SOIL)からオンライン配信しました。

▲ SOILでのDemo Dayの様子

TAPの特徴のひとつは、東急グループの幅広い顧客接点を活かした事業共創。スタートアップを中心とした応募企業と東急グループとが共同で社会実装を実現し、必要に応じて業務提携や出資等を検討していくプログラムとなっています。

TAPには現在東急グループ27事業者(19社)が参画し、17の対象事業領域で事業共創を検討中。過年度の受賞企業とはすでにPoCを52件実施し、21件の事業化/本格導入、その中から業務提携・資本提携を7件を実行するに至りました。2020年度はコロナ禍の中でも、20件のPoCを実施(確定を含む)しています。また、2020年度からは「民主化」フェーズとして、「東急グループの誰もがオープンイノベーションという選択肢を持ち、実行できる状態」を目指した取組みを始めています。ピッチ動画の社内ポータル上での公開などにより、TAP参画事業者やメンバーに限らずグループ社員が応募企業との事業共創に取り組める環境を整備することで、事業共創の幅のより一層の拡大に取り組んでいます。

今回のDemo Dayでは4名の外部審査員を含む7名が応募企業と東急グループの事業共創案を審査。「新規性」「成長性」「親和性」「実現可能性」という観点から定量評価を行い、定性的な観点も加味して総合的に審査を実施しました。

【審査員】
(外部審査員)
・グローバルIoTテクノロジーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長 安達 俊久 氏
・SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長 加藤 由紀子 氏
・デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 代表取締役社長 斎藤 祐馬 氏
・Spiral Capital シニアアソシエイト 立石 美帆 氏

(東急審査員)
・東急株式会社 取締役社長 社長執行役員 髙橋 和夫(審査員長)
・東急株式会社 取締役 常務執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 藤原 裕久
・東急株式会社 執行役員 沿線生活創造事業部長 金井 美惠

▲ 審査員の皆様にはオンラインでご参加いただきました

● 【東急賞】福祉施設発アーティストの作品で渋谷をジャック|ヘラルボニー

【東急グループのパートナー】
株式会社東急百貨店、東急株式会社 ROAD CAST事業

【プレゼンター】
株式会社ヘラルボニー 代表取締役 松田 崇弥 氏

最優秀賞である東急賞に輝いたのは、株式会社ヘラルボニー。

ヘラルボニーは全国の福祉施設でアート活動をしているアーティストとライセンス契約を結び、そのアート作品を様々なモノ・コト・バショに展開しているスタートアップです。Demo Day時点で25以上の福祉施設と契約し、2,000点以上のアート作品を高解像度のデータとして保有。そのデータを軸にBtoC、BtoBに展開しています。ちなみに社名の「ヘラルボニー」は、自閉症である松田さんのお兄さんが自由帳に書いた謎の言葉をそのまま会社名にしているそう。「ヘラルボニー」という言葉のような、一見意味のないと思われることを「価値」として社会に創出していきたい、そんな想いが込められています。

今回東急グループとは「『渋谷を軸とした街づくり』にアート作品を点在させることにより、一人ひとりの「違い」を「価値」として感じられる社会を共創する」をテーマに2つの取組みに挑みました。

まずは東急百貨店本店でのポップアップの実施。店内をヘラルボニーのアート作品で彩りました。単に作品を展示するだけではありません。ターポリンという非常に耐性のある素材で展示された作品は、展示終了後にバッグに生まれ変わり、来場客が作品にまつわる商品を購入できる新たな仕組みが施されました。

2つ目の取組みはWall Art MUSEUM STORE。街の壁面を画廊と捉えた、世界一巨大なミュージアムショップを街中に開館しました。アートに付随するQRコードを読み込むとエコバッグが買える仕組みになっており、空き広告のアート化が収益にも繋がります。QRコードからの遷移率は、通常の広告とは比較にならないほど高かったそうです。Demo dayは丁度桜の時期だったので、桜をテーマとしたアート作品が飾られました。

▲ 左からROAD CAST担当の片山 幹健、ヘラルボニーの松田氏、東急百貨店の小林 洋介

● 【渋谷賞】東急百貨店のデパ地下をフードデリバリー|シン

【東急グループのパートナー】
株式会社東急百貨店

【プレゼンター】
株式会社シン 代表取締役社長 大見 周平 氏

渋谷賞を受賞したのはフードデリバリーサービス「Chompy」を運営するシン。「まいにちの暮らしを、おいしく笑顔に」をコンセプトに掲げ、商品をまとめて配達することで配達コストを抑えたり、掲載されるお店を大手チェーンではなく個店を中心としたりすることで、他のフードデリバリーと差別化を図っています。

そんなシンは今回、東急百貨店との事業共創を実施。コンセプトは「既存の百貨店ビジネスの仕組みを維持/活用しつつ、『デパ地下体験』をデリバリーで完全再現したい」。東急フードショーエッジ約30店舗の商品を、Chompyのアプリから注文できる仕組みを構築しました。注文から約30分で配送、複数店舗の横断注文できる点が特徴です。1FのスイーツとB2Fのお惣菜の両フロアから注文できるので、幅広いニーズに対応可能です。

配送員が何人も百貨店内で集荷するのは好ましくないため、百貨店側が商品をとりまとめ、Slackによる簡易的ですが汎用性のある業務連携システムを実装しました。毎週のように使うユーザーがいるなど、お客様からは好評です。

今後は東急百貨店全体のデリバリーをサポートしたり、長期的には東急グループ全体のOMO推進をしていきたいと、シンは意気込みます。

▲ シン の大見 氏(左)と東急百貨店の下山 拓郎

● 【二子玉川賞】持続可能性に配慮して育てたサステナブルシーフード|ウミトロン

【東急グループのパートナー】
株式会社東急ストア

【プレゼンター】
ウミトロン株式会社 マーケットサクセス 村上 千賀子 氏

東急ストアにサステナブルシーフードを持ち込むべくTAPに挑んだのはウミトロン。二子玉川賞を受賞しています。同社は水産養殖×テクノロジーのスタートアップで、IoT、リモートセンシング、AIの技術を生産現場に提供してきました。2020年には豊かな海とおいしい魚を未来につなぐため、水産に関わるサプライチェーン全体で協働してより持続可能な水産業の実現を目指すシーフードアクション「うみとさち」を開始。生産現場の支援だけでなく育てた魚の販売促進にまで事業ドメインを広げています。

持続可能性の重要性が年々高まる昨今ですが、東急ストアではサステナブルシーフードの価値をお客様に伝えるのに苦労していました。ところがサステナブルシーフードに興味をもつ消費者は、入手出来る場所をもっと増やしてほしいと考えていることが判明します。

そこでウミトロンは東急ストアと協力して、サステナブルシーフードを東急ストアで販売。六本木ミッドタウン店ではバーチャル販売員が商品の解説を行うなど、売り方にも工夫を施しました。顧客属性を調べたところ、うみとさちが気になる顧客は、東急ストアへのロイヤリティが高い顧客と相性のいいことが判明。さらにうみとさちを目的にした顧客が東急ストアに行くことで、東急ストアとしては新規顧客の獲得に繋がりました。

▲ ウミトロンの村上 氏(左)と東急ストアの武田 裕士氏

● 【SOIL賞】RFIDを活用した工具管理ソリューション|アイリッジ

【東急グループのパートナー】東急建設株式会社

【プレゼンター】株式会社アイリッジ ビジネスパートナー部 モビリティグループ長 MaaS事業推進室 室長 吉岡 大輔 氏

アイリッジはコンシューマ向けアプリを開発する企業で、2015年に上場を果たしています。東急とは2013年の東急線アプリ開発に始まる、縁深い会社です。業務用携帯がスマホにシフトする昨今の情勢に鑑みて、東急建設の業務をDXを推進できると考え、TAPを通した実証実験に臨みました。

対象としたのは「工具のDX」。建設現場では、工具の管理が非常に重要。工事の前に工具を指差し確認し、手書きでリストに入力、作業後も指差し確認し、手書きで報告書を作成しています。しかしこの作業、手書きなので、毎回の作業を積み重ねると、毎月かなりの時間を要しています。

そこで今回のプロジェクトでは、RFIDを用いて工具管理の簡略化に挑みました。工具にRFIDを取り付けることで、アプリで管理できるようにしたのです。工具を確認するタイミングになったらアプリを起動し、アプリで工具をスキャン。あとはアプリが自動でリスト化してくれ、報告書も自動で作成されます。これで工具管理作業の80%の削減に成功しました。

実証実験は成功に終わり、今後は製品の本格開発に移ります。今後は東急建設のみならず、東急グループ全体の業務を効率化していくことを目指しています。

▲ アイリッジの吉岡 氏(左)と東急建設の小島 文寛

● 【SOIL賞】東急線沿線500万人とのデジタル接点創出「common」|フラー

【東急グループのパートナー】
東急株式会社 City as a Service構想推進チーム

【プレゼンター】
フラー株式会社 執行役員 カスタマーサクセスグループ長 プロダクト戦略責任者 林 浩之 氏

フラーと東急が協力して開発しているのは、みんなではじめる街づくりアプリ「common(コモン)」。東急線沿線500万人とのデジタル接点を創出します。

commonは同じ地域の人だけが集まるコミュニケーションアプリ。毎日の生活の中で同じ地域の人に教えてあげたいことを伝え、今すぐ教えてほしいことを問いかけられるアプリです。その特徴は3つ。1つ目に同じ地域の人だけが参加していること、2つ目に街の出来事を地域の人に共有すること、3つ目に街のみんなに質問できることです。既存SNSだけでは解決しない地域のことをcommonで解決する。東急ならではの駅や地域を中心としたサービスとなっています。

将来的には生活基盤に個人の「基礎データと行動データ」を紐付け、生活の中心となるサービス基盤を構築する狙い。ただの課題解決プロジェクトではなく、次の100年の「新しい街づくり」を目指します。

▲ 東急の大町 篤史(左)と、フラーの林 氏

● 【SOIL賞】Googleマイビジネスと各種SNSアカウントを一括管理|カンリー

【東急グループのパートナー】
株式会社東急百貨店

【プレゼンター】
株式会社カンリー 代表取締役社長 秋山 祐太朗 氏

Googleマイビジネス(GMB)と各種SNSアカウントを一括管理できるクラウドサービス「Canly(カンリー)」を提供する株式会社カンリー。

店舗ビジネスにとってGMBは、今や第2のHP。自社のHPよりもGMBの方が閲覧数が多いケースも少なくありません。ただ一般的に、GMB上の営業時間が実際とズレていたり(特にコロナ禍における緊急事態宣言下ではズレが生じた店舗も多いのでは。)と、情報の不正確さに起因するユーザーからの声もよく耳にします。とはいえ管理しなければいけない店舗数も多く、担当者は運用が大変です。

そこで登場するのがCanly。各種媒体(SNSやHP)の店舗情報更新・投稿を一括操作可能で、管理コストを最小化します。詳細なデータ分析も可能です。例えば「感染症対策のアルコールを増やして欲しい」というクチコミを発見すれば、店舗オペレーションに反映し、早期に改善させます。

東急百貨店とは3つのフェーズで実証実験を実施しました。まずは情報の改ざん防止機能を活用した各店舗の情報の整理と、正確な情報の維持。この時点で東急百貨店のクチコミは3,300件以上と、かなりの数があることが確認されました。次に情報の一括配信機能を利用したイベントやキャンペーンの訴求。さらに詳細なデータ分析による効果検証も実施しました。GMBを中心としたオンラインの可能性が可視化されたことにより、オフラインのチラシだけではなく、オンラインでの認知や情報伝達の重要性がより一層認識される結果となりました。

今後は東急百貨店全体だけでなく、各テナントの営業時間を一元的に管理したり、クチコミ(お客様の声)を拾い上げることで、さらなるサービス改善に努めます。

● 【ベストアライアンス賞】株式会社東急百貨店

G審査員による応募企業への各賞選出に加え、今年度のTAPで最も活躍・貢献したTAP参画事業者として「ベストアライアンス賞」を新設し、株式会社東急百貨店をTAP事務局により選出しました。事業共創の推進パワーに溢れる東急百貨店との事業共創に興味をお持ちの方は、ぜひTAPにご応募ください。

TAPの受付は24時間365日

ヘラルボニーの東急賞受賞で幕を閉じた2020年度のDemo Day。しかしながらTAPの目標はあくまでスタートアップと東急両社による「社会実装」です。TAPはそのためのPoCを今後も推進していきます。

またTAPでは、他のアクセレートプログラムとは異なり、随時スタートアップからのエントリーを受け付けています。対象はポストシード以降、つまりプロダクトがローンチされている又はローンチの目途がついている企業から上場企業までもが対象です。2019年度から審査期間を従来の約1ヶ月から、最短2週間に短縮し、よりスピーディなプログラム運営を行っています。皆様からのTAPへのご応募を、お待ちしております。

▼当日の動画はこちらからご覧いただけます。

▼東急アクセラレートプログラムへのご応募はこちらから

text: pilot boat 納富 隼平、photo: taisho