求むZ世代起業家。
SHIBUYA109エンタテイメント新社長が語る、
若者との共創が必須の理由
|TAP Inside|SHIBUYA109エンタテイメント(後編)

2022年1月14日

東急アライアンスプラットフォーム(以下「TAP」)では、スタートアップとの協業を実現してきた東急グループ各社に、これまでの取組みや業界の見通し、これからオープンイノベーションで創りたい未来について、TAP Insideと題してインタビューを実施します。

前編に引き続き登場するのは、SHIBUYA109エンタテイメント社長の石川と、内藤。後編ではスタートアップとの取り組みについて詳しく聞きました。聞き手はTAP管掌の役員、東浦です。前編はこちらから。

※本インタビューは2021年12月に実施し、情報はその時点に基づいています。

若者が共感するプロダクトとの共創が必要

東浦(TAP): ベンチャー企業との共創について聞かせて下さい。東急グループのBtoC事業の顧客は、全体的に年齢層が高めで富裕層が多い。その中でSHIBUYA109(以下「109」)は明らかに毛色が違います。109としては何を期待してベンチャーやTAPと関わっているのでしょうか。

内藤(109): 前編でもお話しましたが、これからの時代お客さまがショッピングセンターに来るためには「目的」が必要になってくると考えています。なので109が目的を作っていくことはもちろん、お客さま自身に、得た体験を発信してもらうということも重要性を増してくる。ものを売るだけではない「床の使い方」に挑戦していかなければならないんです。TAPではそのための武器を探しています。

▲ 内藤 文貴 | Naito Fumitaka
株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 企画戦略部 マネジャー

千葉県船橋市生まれ。2006年東急モールズデベロップメント入社。SHIBUYA109公式通販の営業、プロモーション、システムディレクションなどをEC事業全体の管理を行う。2017年よりSHIBUYA109エンタテイメントへ出向。アプリの開発、QRコード決済導入など店舗のDX化を実施。2020年より現職で会社全体のデジタル活用の方針策定などを推進。

内藤(109): 難しいのは、一律なソリューションがあればいいという話ではないということです。Z世代はデジタルネイティブと言われていますが、だからといって誰もが新しいアプリをどんどん使いこなすわけではない。彼・彼女らが使いやすいソリューションをどう提供するか。こういう視点でソリューションを探しています。

東浦(TAP): 109は認知度も高いので、色々なベンチャーや企業からの売り込みもあると思います。その中であえてTAPというプラットフォームに参画するメリットはあるんですか?

内藤(109): TAPでは、いわゆる売り込みとは違った角度での提案がありますよね。だから参加していて楽しいです。売り込みではツールの営業のような話が多いですが、TAPでは「共創して新しい事業を作ろう」という提案がある。それがTAPの価値ですね。

東浦(TAP): そう言っていただけるのはありがたい。既に109としてベンチャーと実証実験をしたり、協業した実績もあると思いますが、気づきを教えて下さい。

内藤(109): わかりやすいところでは、ティーン向けフェスを運営する超十代と若者向けの番組を作ったり、家具・家電サブスクのサブスクライフとは大学生になる方向けに家具を提供したりしました。109の主要顧客は若い子で、彼・彼女らとの接点が109のコア・コンピタンスです。色々な案を検討したり試してみたりしましたが、結局彼ら・彼女らを応援する取り組みがPoCまで行き着いていますね。

石川(109): 今の若者の消費行動は、デジタルに左右されますよね。そのためデジタルを起点に共感を創り出し、リアルでその共感との接点を作ることが大事だと考えています。

▲ 石川 あゆみ | Ishikawa Ayumi
株式会社SHIBUYA109エンタテイメント 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ。名古屋大学卒業後、通信事業者、出版系IT企業を経て、2008年に東急株式会社に入社。東急グループの顧客基盤強化戦略におけるデジタルプラットフォーム構築、共通ポイント制度設計などを担当したのち、リテール事業部にて東急グループのリテール事業戦略策定、EC/OMO戦略策定に携わる。同時期に、渋谷の大手IT企業とともに小中学生向けのプログラミング教育事業を立ち上げた。
2021年4月にSHIBUYA109エンタテイメント社長に就任。趣味は子育てとキャンプ。

石川(109): ただそれが社内だけで考えてもしっくりくるものが出てこない。なのでスタートアップの中でも若者・Z世代の起業家が作って「上の世代にはわからなくても、自分たちはこれがいいんだ!」と若者が共感するプロダクトとの共創が、109にも必要だと思っています。お客さまも巻き込んでサービスを育てていきたいですね。

内藤(109): Z世代の起業家はZ世代のマインドをわかりきっているはず。そういう方と一緒に新しいプロダクトを作っていきたい。109は若者を応援していく企業。お客さまとしても、一緒にイノベーションを起こしていくという面でも、Z世代とはご一緒していきたいです。

東浦(TAP): 内藤さんは東急グループが集まるTAPの全体会議に参加いただいていますが、「109でこれを考えているのだけど、一緒にやる会社ないですか?」といった、グループ内での横串を通すような発言もされていますよね。その真意は?

内藤(109): 1社だけだと難しいことがグループだとできるというのが東急グループ・TAPのメリットだと思うんです。TAPはデジタルを含めた新しいことにチャレンジしたいマインドの人が各グループから参加しているはず。なので個別にやるより発展できるかなと思って。

例えば先日会議でAIカメラが話題になりましたが、これが必要なのは東急グループの中でも109だけではないはず。複数社で取り組めば導入コストが下がるでしょうし、AIカメラを提供するスタートアップとしても、PoCで色々なデータがとれるようになる。横串を通した活動にもメリットがあると思うので、上手く取り組んでいきたいですね。

床貸しだけではなくソリューションの提案も

東浦(TAP): 話をがらっと変えますが、石川さんは2021年に社長に就任されました。他の会社で経験を積んだ後に転職して東急グループに参画して、子供のプログラミング事業を営む「Kids VALLEY未来の学びプロジェクト」を立ち上げ、渋谷のIT企業と連携して成果が出てきたところでの109社長就任となりましたね。

石川(109): 内示を受けたときは衝撃でした。しかも2021年上期はコロナの影響が大きくて、休館要請やオリンピック期間中の感染者急増もあり、本当にドタバタしていました。これをしっかりと落ち着かせて、会社を平常運行させることが最初の仕事でした。今は落ち着いてきて、今後の方針の共有もできてきた。今はポジティブに「みんなでやっていこうね」というフェーズになっています。

東浦(TAP): 今後の方針とはどういうものですか?

石川(109): まずもっては、ショッピングセンターのリアルの価値を高めていきます。その上で109が向かう未来を知るためには、私とは全く違う価値観や趣向を持ち合わせている子たちの実態を知る必要がある。これからの消費を支えるZ世代が、何をどう捉えているのか。それを理解し、そこから行動に繋げていきます。

石川(109): また社長になってから「Z世代に関するインサイトを自分たちのサービスに生かしたい」企業が、予想以上に多いことも知りました。そういう意味で109が捉えている生のお客さまの声やインサイトは非常に価値があるし、これにはもっと可能性もあると思っています。

東浦(TAP): これからはソリューションも提供していこうと。

石川(109): その通り、ソリューションビジネスにも注力していきます。たとえば、IMADA KITCHEN事業では、一見IMADA KITCHENという場所を貸し出しているだけのように見えると思うんです。実際には、例えばクライアント様が若者向けの新しい商品を開発したいとなった時に、「若者は何を求めているのか」「それをどうパッケージに落とせばいいのか」「どんな商品が合わせて買われるのか」といったことを、我々のインサイトを使って、一連のソリューションのメニューとしてご提案しています。

東浦(TAP): 出店企業のマーケティング支援も強化していく。109に出店した企業に「自分たちだけではできなかった。109とだからできた」と感じてほしいということですね。

石川(109): そうですね。出店後にも「若者にはどのくらい響いた」「若者以外がどのくらい反応した」「SNSの拡散効果はどのぐらいだったか」といったことまでレポートしていきます。出店企業に限らず若者との接点を持ちたい会社が、仮説を検証するために109が用意できるインサイトやデータには意味がある。これは当然大企業だけでなく、スタートアップだって必要な情報ですよね。

内藤(109): Win-Winになれそうであれば、ベンチャーとも情報共有していきたいですね。

石川(109): 逆にスタートアップにお願いしたいこともあります。
SHIBUYA109エンタテイメントは定性的な調査が強みなのですが、他方で常時収集している定量データはあまりないのです。先日はCCCマーケティング株式会社さんと一緒に「Z世代の食に関する意識調査」を発表したのですが、このように定量データやその解析をしている方々との協業はしていきたいです。

内藤(109): そうですね。Z世代に定量調査。こういったキーワードを軸に、スタートアップとの共創を仕掛けたいと思います。SHIBUYA109エンタテイメントとの協業に興味があるスタートアップは、ぜひTAPからご応募ください。

東浦(TAP): ありがとうございます。引き続きTAPでも109とベンチャーの協業を促進していきます。
石川さん、内藤さん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

石川(109)内藤(109): よろしくお願いします。

▲ 左から東浦(TAP)、石川(109)、内藤(109)、右はTAP事務局の満田

(執筆・編集:pilot boat 納富 隼平、撮影:日野 拳吾)