インフラも人も高齢化。
オープンイノベーションで挑む、建設業の危機とチャンス
|TAP Inside|東急建設(後編)

2021年11月29日

東急アライアンスプラットフォーム(以下「TAP」)では、スタートアップとの協業を実現してきた東急グループ各社に、これまでの取組みや業界の見通し、これからオープンイノベーションで創りたい未来について、TAP Insideと題してインタビューを実施します。

前編に引き続き登場するのは、東急グループのゼネコンである東急建設株式会社(以下「東急建設」)。「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」という3つの提供価値を中心とした、スタートアップとの連携について話を聞きます。

東急建設から登場するのは、社長の寺田光宏と、社長直下で新規事業を担う価値創造推進室イノベーション推進部の関本良平。聞き手はTAP管掌の役員、東浦(トウウラ)亮典です。

※本インタビューは2021年10月に実施し、情報はその時点に基づいています。

ベンチャー投資も開始した東急建設

東浦(TAP): 建設業はエネルギー使用量も膨大ですよね。エネルギー分野での連携についてはどうお考えですか?

寺田(東急建設): 東急建設が事業として使う電力は、可能な限り再生エネルギーにしたいと考えています。ただそうするとどうしても自らがエネルギーを作らないといけない場面も出てくるだろうということで、価値創造推進室で再エネ・創エネについて検討を始めているところです。

▲ 寺田 光宏 | Terada Mitsuhiro
東急建設株式会社 代表取締役社長

1957年静岡県生まれ。79年徳島大学工学部建設工学科(土木専攻)卒業、同年東急建設入社。2010年執行役員鉄道建設事業部長、12年取締役常務執行役員土木総本部長、16年取締役専務執行役員土木本部長、18年代表取締役副社長執行役員就任、19年より現職。

関本(東急建設): 創エネに関連するのですが、東急建設は2021年、50億円のベンチャー投資枠設定を公表しました。

この第1弾として、太陽光パネル保守管理用・AI / IoTプラットフォームを開発しているヒラソル・エナジー出資しています。

東浦(TAP): ベンチャー投資について詳しく教えて下さい。なぜ投資をするのでしょうか。

関本(東急建設): 投資の最大の目的は、技術的なシナジーです。自前で持っていない技術をベンチャー企業とともに創り上げていきたいと思っています。

東浦(TAP): シナジーはどう見極めて判断するんですか?

関本(東急建設): 基本的には情報が入った段階で、各分野の担当に「こういうの、使えるかな? どうかな?」と毎回聞いています。TAP経由で紹介を受けるときも、我々事務局だけでなく各担当者にも入ってもらって、技術のことはすぐに確認しますね。

東浦(TAP): これは東急建設に限らず一般論として、それなりの企業からすると一点突破のベンチャーはリソースが十分なわけではないから、つい足りないところに目が向いてしまう、つまり粗が見えてしまうわけです。でもベンチャーと組むということは、粗には目を瞑って、良いところに目を向ける必要がある。これがわかっている人ならいいですが、そういうわけにもいかないんじゃないですか?

関本(東急建設): そういう意味ではPoCを大切にしています。0か100かで考えてしまうと、すぐに「この技術で本当に大丈夫なのか」「100%保証できるのか」「これでいくら儲かるんだ」と言う人が出てくる。なので担当者には「すぐに見極めるのはやめましょう」という話をしていて、最初はPoCで少しずつ案件を進めていって、少しずつ慣れてもらい、次第に案件を大きくしていくのが得策だと思っています。

▲ 関本(東急建設): 良平 | Sekimoto Ryohei
東急建設株式会社 価値創造推進室 イノベーション推進部

2011年東急建設入社。入社後は九州支店にて建築部で現場事務・工務を担当。その後、管理本部総務部にて、規程改定や社屋管理・改変の企画立案・実施等に取り組み、2021年4月から価値創造推進室イノベーション推進部で社内外の新規事業・オープンイノベーションを担当している。

人手不足と高齢化への対処にチャンスあり

東浦(TAP): 建設分野では最近、水道橋が崩落するという事故がありました。数年前にもトンネルが崩落したり、今「朽ちるインフラ」が大きな問題となっています。自治体の財政が厳しくなってメンテナンス費用をかけられないことが、原因の一つです。こういうことはあってはいけないことですので、逆に言えば検知・予測できたりすればビジネスチャンスにもなると思うのですが、東急建設ではどうお考えでしょうか。

寺田(東急建設): 今のインフラの中には、1964年の東京オリンピックに合わせて整備されたものも多く、本来は改修しなければいけないものも多いのが実態です。費用の他にもメンテナンスがしにくい理由はいくつかあって、例えば実地点検には人手や危険性の問題があります。

ただこの点は、ドローンの遠隔操作で解決できるかもしれません。またインフラの点検自体も画像処理で解決できる技術をもつスタートアップが存在し、意気込みを感じます。

東浦(TAP): 是非スタートアップのIoTやロボティクス技術等を使いながら、人手を介さなくてもインフラをコントロールする体制を整えてほしいですね。ましてこれから国内の総工事量は減っていく。なのでメンテナンスという市場は大事に扱わなくてはならず、イノベーションが求められそうです。

寺田(東急建設): 事前に建物にセンサーやグラスファイバーを埋め込んでおいて、危険な兆候を把握できるようにしておくのが理想ですよね。でも今あるインフラ施設全部にこれから後付でするのはなかなか難しい。というのも地方には土木技術者がほとんどいないんです。そこをどうしていくのかが日本全体の大きな課題と捉えています。

東浦(TAP): 建設業界の人手不足と職人の高齢化は深刻な課題ですよね。なんでもロボットにすげ替えればいいというわけではないですが、ロボティクスへの期待はどうですか?

寺田(東急建設): 大きいです。高齢化がこれだけ進み、建設を担う人たちがどんどんいなくなって、インフラが維持できるのだろうかと。企業だけでなく国も危惧しています。その対策の一環として、ロボティクスに任せられるところは任せなくてはなりません。とはいえ、ロボットが実際の工事現場で働けるかというと、まだそういう状況にはないと認識しています。

東浦(TAP): 環境の安定した工場内であればいざ知れず、現場の状況は各々違いますからね。

寺田(東急建設): 足元も平らなところがありません。期待はあるのですが、まだ技術進歩を待たなくてはならない状況なので、逆にチャンスではあるでしょう。

多様な研究環境に海外展開。使ってほしい東急建設のアセット

寺田(東急建設): 東急建設としても個人的にも、今ベンチャー企業に最も期待しているのは、やはり再エネ関連の技術です。内製化のノウハウが薄いところですので、是非タッグを組みたい。こちらからは実証のフィールドを提供できるかと思います。

東浦(TAP): 手前味噌ですが、TAPがベンチャーの皆さまや業界から評価していただいているのはその点です。

他社では「いいベンチャーがいた。では買収してグループ化しよう」というように、技術を買い取るような形式が多いように思います。しかし東急グループではどちらかというと実証のフィールドを提供しながら、一緒にWin-Winのモデルを作る共創モデルを作ろうとしています。

寺田(東急建設): スタートアップに提供できるアセットをいくつか挙げさせて下さい。例えば技術研究所。中には色々な実験施設があるのですが、よくお客さまをご案内する人工気象室では、人工的にマイナス10度から60度の世界を作ったり、降雪させたりできるので、寒冷地で使う技術の検証に使えます。他にも無響室や地震の検証に使う大きな振動台も抱えています。

東浦(TAP): なかなかこういうアセットはベンチャーにはないので、是非これを生かしたアライアンスをお願いしたいですね。

関本(東急建設): 東急建設は海外でも事業展開していますので、海外を舞台にした実証実験もやっていきたいです。同じ技術でも日本とは求められることも違ったりすると思うので、上手く使ってほしいですね。

東浦(TAP): 国内のとある風力発電ベンチャーと話をしていた際に、「東急と組めませんかね」と話をしたら「日本はマーケットが小さすぎるので、海外で事業展開するんです」と言われてしまいました。なので海外だからこそ役立てる分野もあるはずです。東急建設には創エネ・廃棄物の問題とかも海外で事業構築してみて、日本への逆輸入も試してほしいですね。

寺田(東急建設): 東急建設では建設廃棄物選別ロボットも開発しているのですが、日本よりも東南アジアの廃棄物のボリュームの方が断然大きいなんて話も聞いています。確かに挑戦したいですね。

東浦(TAP): ところで、ビジネスモデルについてはいかがですか? 例えばGAFAと言われる会社は、ビジネスモデルも伝統的な会社とは異なります。建設においても、例えばビルオーナーはランニングコストの増加は嫌がる。だから危ないよと忠告しても「長期修繕の時期を1年間遅らせよう」なんてことになる。こういうところもスタートアップと組んで、新しいモデルにチャレンジしてもよいのではないですか?

寺田(東急建設): そういったビジネスモデルも考えていかなければいけないと思っています。センサー等の技術は、やはりベンチャーが強いので、それに対応したビジネスモデルに柔軟に頭を切り替えなければいけないですね。

東浦(TAP): 寺田さん、関本さん、本日はスタートアップとの連携の話から、投資やアセットまで、多岐にわたり教えていただいてありがとうございました。引き続きTAPを上手く活用して、スタートアップとの連携を深めていただければと思います。

寺田(東急建設)関本(東急建設): ありがとうございました。

(執筆・編集:pilot boat 納富 隼平、撮影:taisho)