オープンイノベーションで実現する、
街の魅力を高める「次世代ショッピングセンター」構想
|TAP Inside|東急モールズデベロップメント(後編)

2021年9月29日

東急アライアンスプラットフォーム(以下「TAP」)では、スタートアップとの協業を実現してきた東急グループ各社に、これまでの取組みや業界の見通し、これからオープンイノベーションで創りたい未来について、TAP Insideと題してインタビューを実施します。

前編に引き続き登場するのは、東急線沿線を中心に30におよぶショッピングセンターを運営する東急モールズデベロップメントから社長の秋山浄司と、TAPとの連携担当である堀田雄也。聞き手はTAP管掌の役員、東浦(トウウラ)亮典です。後編は、秋山が考える「次世代ショッピングセンター」構想や、スタートアップとどのような連携をしたいのかを聞きます。前編はこちらから。

※本インタビューは2021年9月に実施し、情報はその時点に基づいています。

街づくりを担う「次世代ショッピングセンター」構想

東浦(TAP) : 東急モールズデベロップメントの中長期的な計画を教えて下さい。

秋山(東急モールズデベロップメント、以下「TMD」) : 前編でお話したように、コロナがなくても、EC比率の高まりなど小売業界は今変革の時にあります。それを前提に、中期経営計画を策定しております。

▲ 秋山 浄司(Akiyama Joji)
株式会社東急モールズデベロップメント 代表取締役社長

1982年東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)へ入社。入社後は多摩田園都市の開発や海外のリゾート事業に携わる。2010年には同社ビル事業部 二子玉川ライズ運営部 統括部長として、二子玉川ライズS.C.の開業プロジェクトを主導、2015年には同社リテール事業部 商業部 統括部長として、東急グループ各社のリテール事業の変革を先導し、東急モールズデベロップメント(TMD)非常勤取締役を兼任。2017年にTMDに出向し副社長に就任、2018年から現職。

秋山(TMD): まず東急グループ全体では「日本一住みたい沿線 東急沿線」「日本一訪れたい街 渋谷」「日本一働きたい街 二子玉川」という「3つの日本一」を打ち出しています。その上で東急モールズデベロップメントは「日本一住みたい沿線をリードしていくグループ随一のSC(ショッピングセンター)運営会社」をビジョンとして掲げました。

秋山(TMD): 日本は人口減少に伴うマーケット縮小という課題に直面していて、東急線沿線ももちろん例外ではありません。他方で東急線沿線が日本一住みたい沿線となれば、周辺地域から人が集まり、ここには日本一優良なマーケットがあることになります。それをリードしていくというのが東急モールズデベロップメントのビジョンであり、これを実行するための事業戦略が「次世代SC」です。

既存のショッピングセンターはプラットフォームの役割を担ってきました。東急モールズデベロップメントで言えば、リアルの場をハブとしてテナントを誘致し、お客さまを集めて購買に繋げることで、テナントの売上の一部を受領しています。しかしECの浸透等もあり将来的にはこれだけだと厳しいため、プラットフォームを進化させなければなりません。

具体的にどうするかというと、「街の顔」である駅前のショッピングセンターを「買い物の場」から、買い物を含めた「快適な生活の拠点」へと変化させていくのです。これにより東急線沿線の魅力を高めていきたいと考えています。

東急モールズデベロップメントだけではなく、東急グループはもちろん、住民、企業、学校、行政、そしてスタートアップと共に街づくりをしていく。街の様々な課題やニーズを叶える。それが「次世代SC」構想です。

東浦(TAP) : 次世代SCとはフィジカル(身体的)なことを指していますか?

秋山(TMD) : フィジカル(身体的)はもちろん、精神的な部分もです。日本一住みたい沿線として人が集まれば、新たな課題やニーズが出てくる。その解決の場として次世代SCがあります。ショッピングセンターは「モノを買う場」というだけでなく、「生活の場」になる必要があるのです。

堀田(TMD): コロナにより消費者の行動は「地域内行動、地域内消費」へと変化しています。例えば在宅勤務になることで地域内で食事や買い物をする機会が増えました。同様にサテライトオフィスの需要が高まるならば働く場を作らなくてはなりませんし、学べる場が望まれるかもしれません。こうした新たな課題を解決するために、「生活の場」としての機能を拡充したいと考えています。

堀田雄也
株式会社東急モールズデベロップメント 未来創造本部 経営管理部 兼 企画部 シニアマネジャー

2008年東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)へ入社。入社後は同社財務戦略部にて東急グループ各社への融資を担当。その後、同社グループ事業本部および経営企画室にて、東急グループ各社の経営改善や事業推進を支援し、2015年から同社リテール事業部にて、東急モールズデベロップメント(TMD)を担当。2018年にTMDに出向、経営管理部にて会社の経営改善に取り組み、2020年から企画部を兼務し、新規事業にも携わる。

秋山(TMD): 日本一住みたい沿線に向けた街づくりの新たなプラットフォームを「次世代SC」と定義しており、地域、行政、企業等を巻き込む仕組みのコントロールがタウンマネジメントです。プラットフォームに参加する人たちが有機的に連携することでエコシステムができ、新たな価値を生み出していく。新たな価値により人が集まり、新たなマーケットができ、ビジネスが生まれる。さらに新たな価値ができて、また人が集まるといった好循環に繋がる。東急線沿線にそのような街の拠点をいくつも作っていくというわけです。

東浦(TAP) : その街の拠点というのは画一的なものではなく、街ごとに特色が異なっていいのですか?

秋山(TMD): もちろんです。たまプラーザモデルがあったり、二子玉川モデルがあったり、南町田モデルがあったりしていい。日本一住みたい沿線に向けて、このモデルを横展開することによって、東急モールズデベロップメントのビジネスを大きく成長させていくというのが、次世代SCの考え方です。

東浦(TAP) : 概念的には私も共感できるのですけれども、それをどう形にするかですね。

秋山(TMD): それには私たちだけでは知恵が足りない部分もあるので、知恵のある人たちと一緒に取り組んでいきたいなと。

東浦(TAP) : ここでオープンイノベーションの話に繋がる。

秋山(TMD): そうですね。住民や行政だけでなく、他の企業、当然スタートアップにも関わってもらいたいと考えています。

TMDのスタートアップとの連携

東浦(TAP) : 前編でも話がありましたが、東急モールズデベロップメントはTAPを通して、または独自にスタートアップと協業を果たしています。今の次世代SCの話も踏まえ、今後のスタートアップとのオープンイノベーションについてはどのように考えているか、教えて下さい。

▲ 東浦 亮典(Touura Ryousuke)
東急株式会社 執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌

1961年東京生まれ。1985年に東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。その後一時、東急総合研究所出向。復職後、主に新規事業開発などを担当。現職は、執行役員 沿線生活創造事業ユニット 兼 フューチャー・デザイン・ラボ管掌。主な著書に『私鉄3.0』(ワニブックス刊)がある。

堀田(TMD): 現在はテナントのリーシング業務を中心にスタートアップと協業していますが、今後注力していきたいのは、デジタルやマーケティングです。地域住民の方々の課題をデジタル技術で解決できるのであれば積極的に活用していきたいと考えています。またマーケティングにおいても、地域住民の方々との「One to One」でコミュニケーションしたり、情報分析をしたりしていきたいんです。例えば、デジタルではコミュニケーションツールの導入やロボット技術の活用、マーケティングではAIを活用した分析精度の向上等の施策を進めていきたいと考えています。

秋山(TMD) : 東急モールズデベロップメントはこれまで「ショッピングセンターでは何が売れるか」という観点でマーケティングに取り組んできました。しかし次世代SCでのマーケティングの対象はショッピングセンターではなく、街のためになるよう「何に困っていて、どんな課題を抱えているのか」という視点が必要になってきます。

東浦(TAP) : ではアライアンス先も相当幅広になりますよね。既存の例で言えばピアッザサブスクライフとはPoCに取り組んでいる。

堀田(TMD): ピアッザは地域SNSですね。日本一住みたい沿線に向けたタウンマネジメントの一環で、直接地域の方々との繋がりや関係を深めたいと考えていたところ、TAPに応募があったピアッザの地域SNSが仮説に合うのではと感じて、ショッピングセンターという立場から試験導入することになったんです。行政との関係も深かった点も導入の後押しになりました。

サブスクライフは家具をサブスクリプションで提供している会社です。ショッピングセンターはテナントが入れ替わる際に什器等を全て入れ替えるのですが、昨今のSDGsの観点からは好ましくありませんし、テナントも投資負担がかかります。そこでテナントがショッピングセンター経由でサブスクライフを利用することで、レンタル什器を活用し、環境・投資負担を和らげていこうという観点で協業を検討してきました。

東浦(TAP) : 確かに、最近はSDGsといった観点は経営には欠かせませんね。

堀田(TMD): SDGsという観点は引き続き重要になってくると考えています。ショッピングセンターは電気・水道・ガスも含め環境負荷も軽くはないですし、テナント経由で食品ロスや産業廃棄物も排出している。10年後にはSDGsへの取り組み姿勢がお客さまに利用していただけるかどうかの基準になるはずなので、ここには継続的に取り組んでいかなければなりません。そういう意味では、今は食品ロスや資源リサイクルに取り組んでいる企業さんとのコネクションを持とうとしています。

東浦(TAP) : 秋山さんに伺いたいのですが、こうやって堀田さん達現場の方がスタートアップとの連携・協業を模索していて、日々報告が上がってくるわけですよね。社長という立場からはどのように感じているのでしょうか。

秋山(TMD) : 今までショッピングセンター運営がビジネスの中心だったわけですから、それ以外の新たなチャレンジが簡単に成功するとは思っていません。失敗してもいいから、色々なことにチャレンジして、とにかくやってみてほしい。正直、それほど大きなリスクがあるわけではないですから。経験を積んでいく中で、新たな発想が広がり提携先も増えていくでしょう。オープンイノベーションには私も期待しているので、積極的に関わっていきたいですね。

東浦(TAP) : と社長は言っていますが(笑)、実際に案件を動かしてみて、現場の堀田さんが学んだことを、失敗談も交えて教えて下さい。

堀田(TMD) : まずは東急モールズデベロップメントが何を求めているのかをしっかりとビジュアルや言葉でスタートアップにお伝えすることが重要だと考えています。スタートアップ側に意図がしっかり伝わらないと、手戻りがあり逆に時間がかかってしまう。スタートアップとは前提や文化が違うので、そのすり合わせが重要だと学びました。しっかりと自分たちの伝えたいことを整理して伝えるべきというのが気付きです。

またスピード感も重要であり、スタートアップとのやり取りはなるべく早く対応するようにしておりますが、それでもスタートアップには及びません。スピードをどう上げていくかはこれからの課題です。

東浦(TAP) : 大きな企業特有の社内調整がありますからね。

堀田さんは現場でもあるし、本社の人間でもありますよね。折角いいアイディアをスタートアップから取り入れても、現場に落とし込もうとすると「そんなの手間がかかるじゃないか」「他のテナントとの関係で難しい」といった抵抗もあるんじゃないですか?

堀田(TMD) : その辺りは、例えば打ち合わせの早い段階から現場のメンバーが同席するなど、早めに関係者を巻き込みます。その方が全体としてのスピード感が上がりますから。

またショッピングセンターには地域性があるので「たまプラーザ テラスはこの施策に興味がありそうだけど武蔵小杉東急スクエアには合わなそう」といったこともある。現場毎にスタートアップと話していては大変なので、本社が一括してヒアリングして全体に共有するといったアクションも取るようにしています。

秋山(TMD) : 現場としての意向もある中で、本社主導の施策には現場の抵抗がないわけではありません。「次世代SC」構想を現場に浸透させて、現場だけでなく「東急線沿線」という全体的な発想に転換させることが私の仕事でもあります。

東浦(TAP) : イノベーティブな組織や人は、どうしても社内で浮いてしまうんですよね。1歩ではなく2歩先に行ってしまうので現場との距離が遠くなってしまう。

秋山(TMD) : 現場の社員が理解してくれないと、お互いの距離が離れていってしまいます。堀田が所属している未来創造本部は社長直轄の組織であり、現場からも人を集めて構成し、本社と現場の考えが乖離しないように、コミュニケーションを気軽にとれるようにすることに努めてきました。

若い世代を戦略的に取り込むために

東浦(TAP) : 東急線沿線は比較的富裕層と言いますか、中高年層が多く、東急のショッピングセンターもその層が顧客として多い。しかしそればかりではどんどん街が高齢化してしまいます。東急グループにはSHIBUYA109がありますが、全体として若い世代に弱い。そこに対しての課題はありますか?

堀田(TMD) : 例えば先程も話に出たSDGsは、現在小学生でも学ぶような内容になっていて、ミレニアル世代・Z世代にはかなり浸透している考え方です。ショッピングセンターでもSDGsに取り組むことで、そういった価値観を重視する若い世代に訴求していくことは重要だと考えています。

秋山(TMD) : 東急線沿線においても、何もしなければ街の高齢化が進んでしまいます。戦略的な若い世代への訴求が必要で、東急モールズデベロップメントはグループ内でその役割を担っている。そのためには様々な施策が必要ですが、自分たちにはないアイディアが世の中にはたくさんあるはずです。是非それを取り入れていきたいですね。

東浦(TAP) : ぜひスタートアップとのオープンイノベーションで、色々なアイディアを実現していってほしいです。東急モールズデベロップメントとのアライアンスを希望するスタートアップは、是非TAPのHPからお問い合わせ下さい。

秋山(TMD) : 東急モールズデベロップメントの事業内容を事前に把握したいというスタートアップがあれば、テナント向けに毎年「TOKYU MALLS DEVELOPMENT REPORT」を用意しており、こちらに事業所数や売上情報などが掲載されておりますので、こちらも必要な方はお問い合わせ下さい。ありがとうございました。

左から堀田(TMD)、秋山(TMD)、東浦(TAP)、右はTAP事務局の金井

(執筆・編集:pilot boat 納富 隼平、撮影:taisho)