激変するショッピングセンター。オープンイノベーションで変革する提供価値
|TAP Inside|東急モールズデベロップメント(前編)

2021年9月29日

東急グループとスタートアップとのオープンイノベーションを加速させるべく2015年に誕生した東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)。これまで55件のテストマーケティングや実証実験、28件の事業化や本格導入、うち、7件の業務・資本提携を実現してきました(2021年9月時点)。

そこでTAPでは、TAPを通してスタートアップとの協業を実現してきた東急グループ各社に、これまでの取組みや業界の見通し、オープンイノベーションで創りたい未来について、TAP Insideと題してインタビューを実施します。

今回登場するのは、東急線沿線を中心に30に及ぶショッピングセンターを運営する東急モールズデベロップメント。既存のショッピングセンター運営の効率性を高めるだけでなく、「次世代ショッピングセンターの実現」や「サステナブルな社会の実現」に向けて、街づくりにも貢献するスタートアップとの連携を深めています。

東急モールズデベロップメントから登場するのは社長の秋山浄司と、TAPとの連携担当である堀田雄也。聞き手はTAP管掌の役員、東浦(トウウラ)亮典です。

※本インタビューは2021年9月に実施し、情報はその時点に基づいています。

コロナ禍がもたらしたショッピングセンターの環境変化

東浦(TAP) : 秋山さん・堀田さんと東急モールズデベロップメントの紹介をお願いします。

秋山(東急モールズデベロップメント、以下「TMD」) : 株式会社東急モールズデベロップメント社長の秋山です。2018年に社長に就任し、現在4期目を迎えています。

▲ 秋山 浄司(Akiyama Joji)
株式会社東急モールズデベロップメント 代表取締役社長

1982年東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)へ入社。入社後は多摩田園都市の開発や海外のリゾート事業に携わる。2010年には同社ビル事業部 二子玉川ライズ運営部 統括部長として、二子玉川ライズS.C.の開業プロジェクトを主導、2015年には同社リテール事業部 商業部 統括部長として、東急グループ各社のリテール事業の変革を先導し、東急モールズデベロップメント(TMD)非常勤取締役を兼任。2017年にTMDに出向し副社長に就任、2018年から現職。

秋山(TMD): 東急モールズデベロップメントは簡単に言うと、ショッピングセンターの運営会社です。東急田園都市線沿線を中心に、現在30のショッピングセンターを運営しています。二子玉川ライズS.C.、南町田のグランベリーパーク、たまプラーザ テラス、港北TOKYU S.C.、青葉台東急スクエア武蔵小杉東急スクエア、みなとみらい東急スクエアが比較的大きなショッピングセンターです。地方でも静岡東急スクエアや金沢香林坊東急スクエアを運営しています。

東急モールズデベロップメントのショッピングセンターに出店するテナントの売上高は2019年度に2,000億円を超えました。2020年度は新型コロナウイルスの影響による休館もあって、売上高は約1,900億円、購買客数約1億人と、多くのお客さまに利用いただいております。テナント売上高の一部を東急モールズデベロップメントが賃料として受領するというビジネスモデル。東急モールズデベロップメントの従業員数は元々同じ会社だった株式会社SHIBUYA109エンタテイメントへの出向者を合わせて、約200名です。

堀田(TMD): 私は東急モールズデベロップメントの未来創造本部の経営管理部と企画部を兼務しています。未来創造本部は部署名のとおり、未来に向けて新たな種まきをする部署です。東急モールズデベロップメントにおけるTAPの窓口として、スタートアップと東急モールズデベロップメントの各事業所を繋げる役割も担っています。

▲ 堀田 雄也(Hotta Yuya)
株式会社東急モールズデベロップメント 未来創造本部 経営管理部 兼 企画部 シニアマネジャー

2008年東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)へ入社。入社後は同社財務戦略部にて東急グループ各社への融資を担当。その後、同社グループ事業本部および経営企画室にて、東急グループ各社の経営改善や事業推進を支援し、2015年から同社リテール事業部にて、東急モールズデベロップメント(TMD)を担当。2018年にTMDに出向、経営管理部にて会社の経営改善に取り組み、2020年から企画部を兼務し、新規事業にも携わる。

東浦(TAP) : ありがとうございます。TAP経由の案件も含めて、これまで実施したスタートアップとの取組み事例を教えて下さい。

堀田(TMD) : テナントを誘致するリーシング業務の効率化のため、オンラインで店舗スペースやイベントスペースを予約できるオンラインシェアサービス「SHOPCOUNTER」を導入しました。また店舗物件を探す人や企業と、店舗物件を抱える不動産事業者をマッチングする「テナンタ」をトライアル導入しています。

これまでリーシング業務は担当者が電話でアプローチしたり直接訪問したりといった手法が中心でした。しかしスタートアップのノウハウを活用してオンラインでリーシングができるなら、業務の効率化はもちろん、取引先の幅が広がるというメリットがあります。

また新たな顧客サービスとして「くらしに、スポっと!」を青葉台東急スクエアで開始しました。これはお客さまの利便性向上に繋がる新たなサービスを提供する場所です。既に傘シェアのアイカサ、スマホ充電器シェアのChargeSPOTを導入し、買い物代行の「PickGo」ともトライアルを開始。一定の需要が見込めるため全社的に横断展開するとともに、今後は宅配ロッカー、シェアサイクル、サテライトオフィス等との連携も考えています。

東浦(TAP) : 特に東急線沿線は人気の駅も多いですし、立地のいいショッピングセンターが多いこともあって、入りたがっていただけるテナントも多かったように思います。しかしコロナ禍で市場環境は一変しましたね。今の状況はいかがでしょうか。

秋山(TMD): 少なくとも、以前ほどウェイティングリストがたくさんあるような状態ではありません。コロナ禍では、アパレルをはじめテナントさん自身もかなり苦しい状況のようです。東急線沿線はやはりブランド力がありますので、以前は沿線へ出店することでブランド力を高めようとするブランドも多かったのですが、相応の売上が見込めないとなると出店は厳しくなってしまう。従来型の「モノを売る」テナントだけでは今後も厳しいとみています。

東浦(TAP) : 東急グループの商業施設に限らず、日本全国津々浦々、業界全体の課題ですね。秋山さんは小売業界全体の状況をどう捉えていますか?

秋山(TMD): 当然ながら、モノを売る業界からするとコロナは非常に大きなインパクトがあって、消費者の生活は大きく変わりました。今までは「駅」が人流の中心でしたが、コロナ禍においてそれが変わってきている。地方だけでなく、都心も既存の商業施設はどんどん厳しくなっていますね。

東浦(TAP) : 都心もですか。

秋山(TMD): リモートワークや緊急事態宣言の影響で人が都心にいなくなってしまいましたからね。ただこの現象は逆に捉えれば、在宅勤務をしている方は自宅近くでの消費が増えるということでもある。自宅近くで買い物したりサービスを受けたりする方が増えているので、東急モールズデベロップメントの商業施設としては可能性を感じています。

東浦(TAP) : 私事なのですが、先日ある家電量販店に行きました。昔に比べるとお客さんは減っていると感じたのですが、家電量販店の売上は堅調です。つまりお店には来るけど買い物しないお客さんが少なくなっただけで、何か買う意志をもって店舗に来ている方はしっかり購入するという状況になっているのかなと感じています。こういった傾向は都心のショッピングセンターではどうでしょうか。

秋山(TMD): 確かにデータ上も来店人数は減少しておりますが、平均購買金額は増加している。おっしゃるとおり店舗に来られる方は、買い物をして帰ることが多くなっているのだと思います。ただ郊外のショッピングセンターはそもそもそれほど高額な商品を販売していないので、購買金額の増加と謳っても限界はある。食料品や日用雑貨については堅調ですが、それ以外は厳しい状況です。

ショッピングセンターとECの補完関係

東浦(TAP) : コロナの影響もあってここ1~2年のお話を伺ったのですが、ここからは中長期的な小売業やショッピングセンターについて聞きたいと思います。小売業界の近年の大きなトピックはECだと思いますが、この影響について教えて下さい。

▲ 東浦 亮典(Touura Ryousuke)
東急株式会社 執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌

1961年東京生まれ。1985年に東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。その後一時、東急総合研究所出向。復職後、主に新規事業開発などを担当。現職は、執行役員 沿線生活創造事業ユニット 兼 フューチャー・デザイン・ラボ管掌。主な著書に『私鉄3.0』(ワニブックス刊)がある。

秋山(TMD): ご認識の通り現代において、コロナに関係なく小売事業はどんどん変化しています。その上でECは、リアルの場を運営している我々にとっては、競合関係にある。とはいえ「ECと戦おう」というのも、今の時代には適合していない。ECを上手く取り込んで、共存する必要があります。

堀田(TMD): 例えばショッピングセンターにある店頭在庫を活用して商品を届けるような仕組みがあってもいいと考えています。ECで購入した商品を遠方にある物流倉庫から届けるよりも、店頭から届けた方が配送距離が近いですから。また販売員の販売スキルはECと比較すると強みになりうるので、店舗の販売員によるライブコマースは将来的に有望な施策です。こうしたショッピングセンターのメリットを上手く活用してECの拡充をしていきたいですね。

東浦(TAP) : 小売りでは今、オンラインとオフラインを区別しないで一体として考えるOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)がトピックですが、どうお考えです?

堀田(TMD): お客さまの消費行動としてOMOは進んでいくでしょう。ただショッピングセンターとしては、リアル店舗・店員の評価が難しくなるのが悩みの種です。お客さまが店頭で商品を確認して、そのテナントの自社ECでその商品を購入した場合、リアル店舗ではなくECの売上になります。それではショッピングセンターとしては売上が把握できず、店舗の販売員は(自分の売上にならないので)モチベーションも上がらない。なのでショッピングセンターのリアル店舗が関わってECで販売されたものを把握できるスキームを考えているところです。

東浦(TAP) : お客さまが商品をレジで決済せずそのまま持って帰るだけで決済されるような無人店舗もあちこちで出てきていますね。

堀田(TMD): 無人店舗の仕組みがあるテナントの出店は弊社としても検討したいですが、ショッピングセンター全体として無人店舗の仕組みを導入するには時間がかかると思います。ただショッピングセンター全体を1つの店舗とみなしてお客さまが買い物できるようになれば、利便性が高まるのは間違いありません。この仕組は長期的には構築していきたいと、個人的には考えています。

前編はここまで。後編は、TMDの社長・秋山が考える「次世代ショッピングセンター」構想や、スタートアップとどのような連携をしたいのかを聞きます。後編はこちらから

(執筆・編集:pilot boat 納富 隼平、撮影:taisho)