
東急電鉄から東急グループ、他社にまで普及を狙う。
配管3Dマッピング「配管くん」のTAP活用術|弘栄ドリームワークス×東急電鉄
2025年3月14日
東急グループとスタートアップのオープンイノベーションを加速させるべく2015年に誕生した東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月に東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)から生まれた協業事例を紹介します。今回登場するのは、株式会社弘栄ドリームワークスと東急電鉄株式会社です。
配管内探査ロボット「配管くん」は、配管内を撮影するだけでなく、独自のセンサーを用いて3Dマッピング、ひいてはCADでの図面化を実現します。そんな配管くんを開発する弘栄ドリームワークスはTAPを通して東急電鉄と出会いました。とはいえ出会った当時のまま配管くんを利用することは難しかったようです。導入のための課題は。必要だった機能は。TAPをどのように活用したのか。弘栄ドリームワークスの遠藤さんと、東急電鉄の中野、新町に聞きました。

配管の3Dマッピングを可能にした「配管くん」
―― 会社・サービスについて教えてください。
遠藤(弘栄): 株式会社弘栄ドリームワークス(以下「弘栄」)の遠藤です。弘栄は山形県山形市に本社を置く、設備工事会社である株式会社KOEI(以下「KOEI」)から、新規事業を担う部署が独立して誕生しました。
事業には大きく2つあります。まずは不明管を見える化する配管調査機械製造事業。後述する配管内探査ロボット「配管くん」はこれに該当します。もう一方は、弘栄の機械を使って新しいことに取り組む会社との協業です。

株式会社弘栄ドリームワークス 営業部営業課 課長代理
2021年に株式会社弘栄ドリームワークスに経営企画部として入社。「配管くん」を通じて、設備業プラットフォームの運用と設備会社の知見を活かした配管経路の図面化、商品開発に携わる。
2022年からは営業課として自社で開発をした機器を使いながら、配管調査、配管経路の図面化のサービスを、インフラ関連、工場、商業施設など様々な施設へ提供している。
―― 配管くんについて教えてください。
遠藤(弘栄): 配管くんは、配管内を通り、その中の撮影をします。ただこれは従来のカメラでもやってきたこと。配管くん特有の特徴は、通ったルートの座標を記録し、3Dでマッピングし、取得した映像データとマッピングをリンクさせることにあります。
マッピングのための位置情報は、配管くんに付いているセンサーを用いて実施。GPSを使っているわけではないので、地下のような電波が届かない場所でも3Dマッピングが可能です。
中野(東急電鉄): 地下でも使えるため、地下鉄をもつ鉄道会社とはすこぶる相性がいいですね。
遠藤(弘栄): そうですね。また単にカメラが付いているだけのロボットだと、配管内部が汚れている場合に何も見えなくて終わってしまいます。そこで配管くんには、配管内を水で高圧洗浄しながら進むタイプも用意しました。
―― 配管くんはどのようなニーズがある建物で使われるのでしょうか。
遠藤(弘栄): 当初は「配管内を調べる→配管の問題点をピックアップする→修理する」という使い方を想定していました。ただ実際にお客さまの話を聞いていると「そもそも配管が現状どうなっているかわからない」「配管の位置が図面と実際で異なっている」という声がたくさんあったのです。
―― 図面と配管の位置が異なるなんてことがあるんですね。
中野(東急電鉄): 設計図と竣工後の現地が異なっていることは、珍しいわけではありません。補修工事などを重ねていく中で「ここには通せない」「じゃああちらから迂回しよう」と、ルートを変えて配管することがあるからです。その変更を全体の図面に反映しないと、実際の配管と図面が異なってしまうというわけですね。よくないことですが、ありうることです。鉄道会社に限らず、日本全国の悩みの種だと思います。

東急電鉄株式会社 鉄道事業本部 工務部 設備プロジェクト課 技士
2020年入社。東急線各駅の衛生設備保守管理や更新工事に従事。
―― 配管くんはどのようなタイミングで使われるのでしょうか。
遠藤(弘栄): 建物の改修をするにあたって図面を起こしたいという場合もあれば、ビルが建設されて30〜40年経ち、中の状況を確認したいというケースもあります。逆に新築の建物が竣工する際に図面通りに設計されているか、中に余計なものが入っていないか、ちゃんと糊付けされているかといったことを確認するためにも最近は使われるようにもなってきました。
最初は興味が薄かった? でも話を聞いてみたら…
―― 母体であるKOEIは1946年に設立された歴史ある会社です。そんな弘栄がどうしてオープンイノベーションに興味を抱いたのでしょうか。
遠藤(弘栄): 配管くんの市場調査をしてみたら、山形をはじめとする東北より首都圏や関西圏の方が、ニーズが大きいことが判明しました。もちろん山形にビルがないわけではありませんが(笑)、やはり建物の数は首都圏・関西圏の方が多いし、再開発も進んでいる。それでまずは東京への進出を考えていたとき、TAPの存在を知ったんです。
新町(東急電鉄): 弘栄からコンタクトがあって、まずはTAP事務局が面談しました。施設管理をしている東急グループ各社と相性がよさそうということで正式にTAPに応募していただき、我々にも紹介していただいたんです。

東急電鉄株式会社 鉄道事業本部 工務部 設備プロジェクト課 技術員
2021年入社。東急線各駅の衛生設備保守管理や更新工事に従事。
中野(東急電鉄): とはいえ「カメラを使って配管の中を見る」といった話は珍しくもないので、正直最初は期待していなかったんです。でもTAPの紹介だからと話を聞いてみたら、すぐに今までにない技術だとわかりました。特に配管の位置がわかるという話は魅力的でしたね。
新町(東急電鉄): 例えば「漏水しているから修理しよう」となって実際に現場に訪れると「図面にはないけどここに配管があって、そこから水が漏れている」なんてことは珍しくありません。ずっとなんとかできないものかと思っていたのですが、有効なソリューションがなかったんです。そんなときに出会ったのが弘栄でした。
遠藤(弘栄): TAPを通して東急グループ各社が集まる中、オンラインでピッチしました。それで東急電鉄をはじめ複数社が興味をもってくれたんです。
山形だとこういった機会は少ないし、あったとしても自治体経由のもの。そういったものはスピード感が劣りますし、実績も大事になってくる。その点TAPはまだ明確な実績がない中でも「一緒にやっていきましょう」というスタンスでいてくれました。我々のような地方の会社にも様々な意見をくれて、東京進出にあたって必要な製品へのリクエストやアドバイスをしていただき、上手くサポートしていただいたと感じています。

遠藤(弘栄): これは余談ですが、弘栄は2023年度のTAP DemoDayにも登壇しました。その後、DemoDayを見たある施設などから問い合わせをいただきましたよ。
―― 本当ですか。お役に立てていたなら嬉しいです。
導入にあたっての壁
―― 東急電鉄からは、具体的にはどのようなリクエストを弘栄にしたのでしょうか。
新町(東急電鉄): わかりやすいところではCADデータでの出力です。配管くんで作れる図面は、当初はエクセルに出力できるだけでした。でも東急電鉄は図面をCADデータで管理しているため、それでは実用に耐えない。そこでCADで出力できないかリクエストしました。そうしたら3ヵ月後にはその機能が実装されていたんです。そのスピード感には驚きましたし、技術力の高さもわかって信頼感が増しました。

中野(東急電鉄): 将来的な補修箇所の予測もできないか、相談しました。「今は破損していないけど劣化している、または閉塞が進んでいる」といったことがわかるようにしたかったんです。それもレポートしてもらえるようになりました。
他にも色々とリクエストをしていて、本当に必要な機能なのか、他社でも必要になるのか、ひいては弘栄のためになるのか、議論を重ねています。
―― 現在は東急電鉄の駅でも配管くんが使われているんですよね。
新町(東急電鉄): 東急電鉄の数駅で、実際に配管くんを通した調査をしています。CADで3D図面化してもらったところ、やはり図面と実際がズレているところがありました。いずれは全駅で配管くんを使用する予定です。

中野(東急電鉄): 現在、配管くんは排水管でだけで使っていて、給水管、お湯、消火水、雨水など他の配管の問題はすべてマンパワーで解決しているんです。とはいえ、他の配管の管理も可能な限り機械へ置き換えていきたい。そういったものにも対応できるかも、現在弘栄と相談しています。
また配管は一旦調べて終わりというわけにはいかないので、継続的な図面の管理ができないか、図面はどうやって残すべきか、議論を重ねているところです。
遠藤(弘栄): 個人的な見解ですが、排水や図面を起こすことは、事業運営上、後手に回るケースが多いんです。しかも自分の部署の範囲だけ理解しておけばいいとなると、どんどん図面と現実がかけ離れていく。それをマンパワーで解決するのではなく、機械や技術を使って解決していくことは、これからの時代には必要だと思います。
東急グループ全体への導入も視野に
── 東急グループの中では、東急電鉄の他に東急建設や東急ストアも関心を寄せていました。老朽化してきた設備の確認や、配管のカビ対策など、建設とはまた違ったニーズがあると聞いています。
遠藤(弘栄): はい。まだ詳細は語れませんが、すでに東急線某駅の建物で配管くんのデモをしています。一般的に、居抜きや改装を経ている小売り店舗は現実と図面がズレていることが多いので、最新の図面に更新したいというニーズは大きいようです。
── 東急グループは「ハコ」を保有している会社が多いので、弘栄とご一緒できるところはまだまだありそうです。
遠藤(弘栄): そうですね。新しく改装するお店や修繕が必要な場所などが多くある中で、配管の周りで困っていることをたくさん聞いています。一つひとつ解決していって、東急グループを皮切りに他の会社の課題も解決していきたいです。

── 最後に、配管くんと弘栄の今後の展望を教えてください。
遠藤(弘栄): 冒頭でもお話ししたように、弘栄は開発会社という側面もありながら、他社との協業もしている会社となっています。これは弘栄の代表である船橋吾一の「今までと同じことをするだけではいけない。停滞は衰退だ」という考えがあるからです。同じ考えをもつ会社とチームを組んで、新しいことに挑戦したい。これが、弘栄の設立時の思いです。
今回東急電鉄とご一緒して、社会に役に立つものを作れていると自負しています。それを他社が使ってその地域に貢献できるようになっていけば、創業の思いに近づけるはず。まずは東急電鉄と確固たる足場を築いていきたいです。引き続き、よろしくお願いします。
中野・新町(東急電鉄): こちらこそ、よろしくお願いします。
── ありがとうございました。東急グループは今後も弘栄を応援していきます。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:日野 拳吾)