企業メディアは「地域のハブ」に。
StoryHubと東急の地域SNS「common」の協業で目指す、
持続可能な地域コミュニティの未来図

2026年7月29日

東急株式会社はStoryHub株式会社と連携し、地域コミュニティアプリ「common」に「街のニュース機能」を追加しました。今後は地域コミュニティとAIや編集の力を組み合わせ、地域情報流通モデルの実証実験に取り組んでいきます。

commonを軸に協業するStoryHubと東急ですが、両社は2026年6月26日、「AI時代の企業メディアとストーリーテリング」と題したイベントを開催しました。commonを題材として、これからの企業メディアとAIの未来について、登壇者4人が語り合っています。

本記事では、サービス設計の原則から地域情報の配信戦略、企業メディアの役割まで、StoryHubとcommonの協業から見えてきたインサイトをお伝えします。

【登壇者(写真左から、敬称略)】
・メディアコンサルタント / コミュニケーションプランナー 松浦 シゲキ(モデレーター)
・東急株式会社 common事業責任者 小林 乙哉
・THE GUILD 代表 / サービスデザイナー 深津 貴之
・StoryHub株式会社 取締役COO 渡邉 真洋

地域コミュニティとAI・編集の力を組み合わせる協業

松浦(メディアコンサルタント): 最初に、commonとStoryHub社の紹介をお願いします。

小林(東急): commonを一言で説明すると「地域SNS」です。東急沿線にある街のコミュニティ構築を支援し、持続可能なまちづくりの実現を目指すアプリとなっていて、投稿、譲渡、相談、スポットといった機能を提供しています。駅単位で、その地域に住んでいる方同士がコミュニケーションを取れるサービスですね。

▲ 小林 乙哉
東急株式会社 common事業責任者

渡邉(StoryHub): StoryHubは、AI時代のストーリーテリングの基盤を作ろうとしているスタートアップです。

メディアに限らず、現代はあらゆる企業が自分たちのストーリーを伝えていかなければならない時代となりました。AIが発展する中、自ら自社のことを語らないと、AIが勝手に自社のことを説明してしまいます。しかもそこにはハルシネーションが起きた情報が含まれているかもしれません。

こういった環境の中でStoryHubは、上流のコンテンツ企画から、下流の情報発信まで、コンテンツライフサイクルを一気通貫で支援しています。

▲ 渡邉 真洋
StoryHub株式会社 取締役COO

深津(THE GUILD): THE GUILDの深津です。僕は色々な会社に伴走しながら、新規事業やサービスのグロースをお手伝いする仕事をしています。皆さんによく知られているサービスだと、noteやクラウドサインといったサービスが代表例ですね。commonの立ち上げもお手伝いしました。

▲ 深津 貴之
THE GUILD 代表 / サービスデザイナー

松浦(メディアコンサルタント): では、commonとStoryHubが協業したプロジェクトについて教えてください。

小林(東急): commonは、UGC(ユーザージェネレーテッドコンテンツ)としてリアルでフレッシュな住民の声を集めて成長してきたサービスです。とはいえ住民の声はフロー情報であり、その蓄積が課題となっていました。

渡邉(StoryHub): 私自身もcommonの話を聞いたとき、「住民から集めた情報を編集すれば、もっと価値が出る情報になるかもしれないな」と感じたのを覚えています。例えば青葉台なら、青葉台の住民に最適化した、細かいニュースを提供するようなイメージですね。地域コミュニティとAI・編集の力を組み合わせたら、街にとってさらに有益なニュースを提供できるはず。この課題感から、両社のプロジェクトが立ち上がりました。

commonにはストーリーの原石になるような声が既にたくさん集まっていたので、それを起点に企画を立ち上げたり、編集したりしてコンテンツを作成しています。その際、AIを活用していますが、AIにすべてを丸投げするのではなく、プロの編集チームを組んで、品質を担保しているのが特徴です。

松浦(メディアコンサルタント): commonやStoryHubが「集める」「作る」「届ける」という機能を提供する中で、私は「作る」部分を担当しています。住民の方の一次情報は生の声なのですが、編集されていないために表現が伝わりにくいこともあるので、そういった情報をAIの力も使いながら届けやすく整形し、プロがチェックして、届けるためのサポート体制を整えています。

▲ 松浦 シゲキ
メディアコンサルタント / コミュニケーションプランナー

commonが解決する都市化の欠点

松浦(メディアコンサルタント): commonの情報流通を考えるにあたって、どのようなコンセプトや戦略を描いていたのか、教えてください。

深津(THE GUILD): 僕がサービスを手伝う際には、自分がユーザー側になれるかどうかを大事にしています。そして偶然にも、commonからお話をいただく1ヵ月ほど前、僕は東急沿線に引っ越していたんです。そのため、ちょうど「街についてもっと知りたいな」と感じているところでした。そういった仕組みを作るのがまさにcommonですよね。そのため僕はシンプルに「こういうサービスが欲しいです」という話をしていました。

松浦(メディアコンサルタント): 一般的に、サービスの初期設計においては、どのような内容を意識するのが良いのでしょうか。

深津(THE GUILD): 僕は常々、「ユーザーの善意に寄り掛からない設計をしよう」と言っています。例えばnoteなら、運営側が「投稿してもらいたい」「読んでもらいたい」からといって、ユーザーにそれを押し付けるような設計をすべきではありません。

commonも同じです。「投稿してもらいたい」「読んでもらいたい」といった運営者が望む行為を、ユーザーに自然としてもらえるようにするのが、デザインの役割です。ユーザーがサービスを開かなくても投稿しなくても読まなくても価値があると思ってもらえるのが理想の姿。その上で、読んだり投稿したりしてくれたらさらに嬉しいことがあるという2階構造にするのが大事だと考えます。そのため、地域のニュースが勝手に集まってきた上で、さらに住民が感想を投稿してくれるような2階構造にするのが良いのではないか、という話をしていました。

松浦(メディアコンサルタント): なるほど。commonとしては、どのような情報を住民に届けたいのでしょうか?

小林(東急): commonで「街のニュース配信」が決まった際、どういった優先順位でニュースを配信するかはかなり議論しましたし、なんなら今でもしています。ニュースと名付けてはいますが、commonが届けるのは一般的なニュースというよりは、地域や生活の中で必要とされる情報です。そこで大事なのは、例えば週末の行動に影響を与えられるか、という視点。その意味では、100km先の飲食店の情報をもらっても困ってしまいます。とはいえ、通勤や通学するため、住民はずっと特定の街にいるわけでもありません。その人にとってちょうど良い距離感の情報をいかにタイムリーに届けられるか。commonではそれが最も重要だと考えています。

渡邉(StoryHub): XやInstagramは距離よりアテンションで最適化されていますよね。commonとディスカッションをする中で、物理的な距離で最適化される情報というのは、現代では意外と少ないのだなと改めて感じました。かなり長く住んでいる街でも「こんな店あったんだ」みたいな発見はありますからね。

松浦(メディアコンサルタント): commonは当初、距離ではなくカテゴリーマッチング的に運用をしていました。そうしたら「距離が遠い」というフィードバックが多かったんです。私は長らくニュースやコンテンツに携わってきたので、ニュースには文脈やコンテキストが大事だと感じていたのですが、生活圏となると「距離」という概念がより強く打ち出されるのだなと気づきました。

渡邉(StoryHub): 街の最新情報って意外とウェブ上にないんですよね。ChatGPTに聞いても閉店している店や誤った情報が出てきたり。街の正しい、最新の情報を蓄積することで、中長期でcommon独自の価値が高まりそうだなと感じています。

松浦(メディアコンサルタント): 街のニュース機能を追加したcommonですが、今後はどのような機能が欲しいですか?

深津(THE GUILD): 僕としては、カジュアルかつノーリスクで地域貢献や地域参加ができる機能が欲しいです。新しい場所に引っ越してみて、新しい街に馴染むのはやっぱり難しいと感じています。引っ越して1年経ってもマンションのお向かいさんの名前をまだ知らないですし、かといって町内会や商工会議所に入るのは負担が重い。そう考えると、アプリに一言書くだけで「自分はこの土地にコミットしようとしているよ」と示せたら良いなと思うんです。それで知らない人と繋がって「今度の飲み会しましょう」なんてことになれば、新しい街に馴染むきっかけになるのではないでしょうか。

小林(東急): 今深津さんが語ってくれたことは、commonを作ったきっかけそのものなんです。街に関わるって意外と難しいんですよね。

昔の村や、都市化する前は、その土地に半ば強制的に貢献する必要がありました。その縛りが都市化によってどんどん解体されていき、知らない人でも安心して住めるようになったのが、都市という発明の本質です。都市なら、隣の人を知らなくても生きていけます。

とはいえそれは、自分が困り果てていても隣人に助けを求められないということの裏返しでもある。隣に住む方が亡くなっていても気づかないということが平気で起こるのは、都市の欠点です。それをどうにかカバーできないかと考えたのが、commonを始めたきっかけの一つでした。どうしたら「繋がらなくていい都市」という生活環境の中で、緩やかな繋がりを作っていくのかは、今後の課題ですね。

AI時代に生まれる、新たなメディアの可能性

小林(東急): 僕からも聞いていいですか?

先日、AIに「信頼できる企業の条件は何ですか?」と聞いてみたら「100年の歴史があるこの企業は信頼できます」なんて答えが返ってきたんです。そういう意味では、既に歴史のある東急みたいな企業は、これからさらに信頼性が高まるようにも思えます。そこにコンテンツでレバレッジをかけるためには、企業はどのようなメディアでどのような情報を、今後発信していくべきでしょうか。

深津(THE GUILD): これは個人的な意見ですが、AIの発展によって今後、「データ駆動型マスメディア」と「真の市民参加型マスメディア」ができるのではないかと考えています。

例えば新聞の投書欄は、何十件投稿してもらっても、1日に数件しか載せられません。テレビの街中インタビューでも、1回に紹介できるのは数人程度。それは確かに市民の声ではありますが、恣意的にピックアップされた数件なわけですよね。しかしAIを用いれば、何万人もの人の意見を一気に処理できる。声の大きな人の意見だけでなく、みんなの意見を集約できるわけです。これまでは工数や労力の問題で特定の意見を切り出さざるを得なかったものを、世界の様々な側面に同時に光を当てられるようになる。この可能性は大きいと感じています。

小林(東急): 技術的な限界もあり恣意的な10人の声しか反映されていなかった地域新聞ではなく、10万人の意見が反映される地域新聞みたいなイメージですね。commonにあてはめるとどうなるのでしょう。

深津(THE GUILD): 例えばこれまでは「公園でペットを散歩させるな」という苦情が1件あったら、すぐに散歩を禁止していたかもしれません。でも10万人の意見が反映できるメディアや行政ができれば、ほとんどの人が「ペットの散歩はしてもいい」と意見表明できるかもしれませんよね。声の大きい人だけの都合でなく、しっかりと地域の声を行政に届けるような仕組みができることを期待しています。

小林(東急): なるほど。例えば二子玉川駅周辺には、4万人ほどの住民がいます。ただその4万人の声をつぶさに聞けるかといったら、現状では不可能です。住民の声と言っても、それは町会など一部の人の意見になってしまいます。それももちろん大事ですが、みんなが求めているものとはズレてしまう可能性はどうしてもある。AIを用いれば、広範囲の意見を取り入れられると。

渡邉(StoryHub): メディアの新しい在り方という意味では、あるライフスタイルメディアの取り組みに注目しています。このメディアは、コンテンツに熱狂したユーザーの反応や行動データをもとに、化粧品や靴を開発したりしているんです。情報を発信するだけではなく、情報を集めて新たな付加価値を付与できるという好例だと思います。

メディアはあくまで手段なので、commonも東急沿線に価値を加えられる新たな打ち手のきっかけにできれば良いですよね。例えば、住民の声を元に、そのエリアで求められているイベントを企画してもいいかもしれません。

実際、小林さんとcommonのKPIについて話していても、UUやPVといった定量的なものではなく、住民の行動変容といった話が中心になります。メディアが本業の企業とは異なるビジネスモデルを築くのは、これからのあるべき姿かなと思っています。

松浦(メディアコンサルタント): 読者を巻き込まずに「おそらくこうだろう」とコンテンツを作っていた従来型のメディアに対して、読者をどのようにメディアに巻き込むかは、commonのポイントだと私も感じています。逆に言うと、まるで想像していなかったネタの登場が、新たなコミュニケーションに繋がっていくのでしょうね。

小林(東急): 確かに、「メディア」と聞くと情報の発信を意識してしまいますが、地域のハブになることも企業メディアとしては重要ですよね。顧客や潜在ユーザーの声をしっかりキャッチして、それをしっかりコンテンツにしていくのは重要だと感じています。

残る課題は、どうしたら人に応じてバランスよく、多様性を反映した情報を受け取れるようにできるか、でしょうか。

深津(THE GUILD): 多様性という概念は、上手く設計しないと、逆に同一的になってしまうんですよね。学校を例に挙げましょう。すべての学校を男女同数の共学にすると、一見多様性があるように思えます。しかしこれだと、学校単位では男女同数で多様性があるようだけど、日本全体では同じフォーマットの学校があるだけになってしまいます。そう考えると真の多様性とは、「男子校もあって、女子校もあって、共学もある」という状態のはずです。

大事なのは男子校・女子校も共学もあって、自由に選択できて、かつノーリスクノーコストで選択を変えられること。AIにしろコミュニティにしろSNSにしろメディアにしろ、ミクロでは偏っているようでもマクロではフェアという状況をどのように設計するかは、非常に重要な課題だと考えています。

渡邉(StoryHub): StoryHubでは、各社が自社のミッションや戦略に基づいた独自のニュースフィードを作ることが、ユーザーに届くコンテンツの多様性を豊かにすると考えています。各社のニュースフィードから、ユーザーが個々の文脈に合わせて利用する。そのサイクルによって、さまざまな多様性が街に生まれていくと考えています。今の深津さんの話と繋がるところがありますね。

イベントは東急のイノベーションラボ「SOIL」で開催しました

エコシステムの構築は、自然のそれを参考に

小林(東急): 最後に、今後企業メディアがどうなっていくのか、どうしていくべきか、ヒントをくれませんか?

渡邉(StoryHub): 繰り返しになりますが、企業メディアは発信するだけでなく、地域のハブになるべきだと考えています。住民と一緒に、その企業が置かれている環境や事業領域について一緒に考える場になれるのが理想ですね。そこで一緒に考えた結果をコンテンツにできるというのも、企業メディア独自の価値となるはずです。

ただ、現状の企業メディアは持続可能性がないことも少なくありません。StoryHubとしては、上手くAIを活用しながらコンテンツが生まれるサイクルを作り、持続可能性を生み出して、業界を良くしていきたいと考えています。

深津(THE GUILD): 今渡邉さんがエコシステム的な話をしてくれましたが、僕がビジネスのエコシステムを考えるときには、リアルな自然のエコシステムを参考にします。つまり、人間の善意や理念、努力だけで回るビジネス・エコシステムは、あまり信用していないんですね。大事なのは、「生態系として自然に循環するにはどうすればいいか」を考えることです。

とすると、AIと人間の共存は最終的に、ミツバチと花粉のような関係になるかもしれません。人類の役目は新しいデータを集めてAIに与えることで、AIの役目はそのデータから人類の益を生み出し、人間にさらに蜜を集めてもらうこと。この関係をメディアに当てはめると、人が情報を集め、それをAIが食べて、AIが良いコンテンツを作って、それが人間社会を良くする、という仕組みになりますかね。そう考えると、「人を巻き込むメディア」というものは「AI時代における、AIと人間の関係」を語るのと同義かもしれません。

松浦(メディアコンサルタント): AIはあくまで人間がこれまで行ってきた作業を代替するツールですが、その役割は「発信者と受け手」という従来の一方通行な関係性を壊すことにも繋がります。これからは企業メディアとユーザーが境界なく一体となり、双方向でぐるぐると循環しながらプロダクトや生活を向上させていく関係性が重要になるでしょう。例えばワークマンのアンバサダープログラムのような、双方向でプロダクトを進化させる取り組みです。

この循環を、5年・50年といった視点で地域開発や住民生活の領域にまで広げていくことが期待されます。これまで人間だけで回すには非常に困難だったこの大きな循環も、AIのサポートが得られれば、うまく機能させられるはず。そう思って私もcommonのプロジェクトに楽しみながら参加しています。

小林(東急): commonを始めてから「企業メディアの取り組みとしてめちゃめちゃ面白い取り組みですね」なんて色んな方に言っていただいていたのですが、どういう意味なのか全然わかっていなかったんですよ(笑)。でも今日の議論でその理由が少しわかってきました。

松浦(メディアコンサルタント): よかったです(笑)。ご参加いただいた皆様、本日はありがとうございました。


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以上、4名によるイベントの様子でした。commonを通して街作りへの貢献に関心のある方、StoryHubを通した企業メディアの運営に関心のある方は、ぜひお問い合わせください。

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(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ひび写真事務所 / 佐久間ナオヒト)