TAPがグループを有機的に繋ぐ。大企業アワード1位になった東急は、
オープンイノベーションの価値をどう高めたのか | 東急×東急不動産HD×東急建設

2024年4月26日

2024年3月に開催された東急アライアンスプラットフォーム(以下「TAP」)2023のDemoDay。最優秀賞は、農業未利用資源であるパイナップルの葉やバナナの茎からバイオ素材を開発する株式会社フードリボンが受賞しました。

DemoDay当日には「Morning Pitch大企業イノベーションアワード2023 第1位!東急グループが目指すオープンイノベーションの活用」と題し、東急株式会社、東急不動産ホールディングス株式会社、東急建設株式会社の3社が、オープンイノベーションにどのように取り組んでいるかを語り合うセッションが設けられました。

各社の取り組みや、受賞に際して評価されたと考える点、現在苦労している点に今後の課題まで、3社が語り合いました。

(画像左から)
・東急不動産ホールディングス株式会社 グループ企画戦略部 イノベーション戦略グループ グループリーダー 佐藤 文昭
・東急建設株式会社 価値創造推進室 イノベーション推進部 オープンイノベーショングループ
・東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 統括部長 三渕 卓(モデレーター)

東急、東急不動産HD、東急建設が登壇。各社のオープンイノベーションへの取り組みは

三渕(東急):本日のモデレーターを務める東急のフューチャー・デザイン・ラボ統括部長の三渕です。

本日は「Morning Pitch大企業イノベーションアワード2023 第1位!東急グループが目指すオープンイノベーションの活用」と題して、東急グループのオープンイノベーションについて、東急株式会社(以下「東急」)、東急不動産ホールディングス株式会社(以下「東急不動産HD」)、東急建設株式会社(以下「東急建設」)の3社でお話をさせていただきます

佐藤(東急不動産HD): 東急不動産ホールディングスの佐藤文昭です。東急不動産HDでは既存事業の変革または新規事業創出のために、従業員一人ひとりにオープンイノベーションに関心をもってもらうための意識啓蒙としてイベント運営や人材育成サポート、スタートアップとの事業連携、CVCによる投資活動、社内ベンチャー制度の推進といった活動に取り組んでいます。外部パートナーとも連携していて、TAPのようなアクセラレーターはもちろん、大学や官公庁、大企業とも接点を築いています。

佐藤(東急不動産HD): 具体例を挙げると、HashPortとはスキー場のリフト券をNFT化バイオームとは蓼科のリゾートタウンを盛り上げるための環境寄与への取り組みで協業しています。また大企業では2023年にJR東日本と包括業務提携を結んだり、大学ではマサチューセッツ工科大学と連携したりしています。

三渕(東急):大学とはどんな取り組みをされているんですか?

佐藤(東急不動産HD): 10年~20年と長期的に街を盛り上げていくためには、不動産業とは直接関係のなさそうな、いわゆる「ディープテック」への投資も必要だと東急不動産HDでは考えています。「渋谷は日本中・世界中へ広がっていく技術を生み出し続けている」なんて評価が高まれば、渋谷という街の価値はもっともっと高まるはず。その一環として、大学とも連携しているんです。

三渕(東急):海外企業や大学の誘致は、東急グループが根を張る渋谷にとっても非常に有益ですよね。大学や行政との連携は一朝一夕ではできません。こういった活動を何十年も前から継続できているのは、東急グループの一つの強みだと思います。

それでは次に西村さん、お願いします。

西村(東急建設): 東急建設の西村美砂子です。2年前にキャリア採用で東急建設に入社して以来、価値創造推進室イノベーション推進部オープンイノベーションチームでCVCやオープンイノベーション業務に携わっています。

東急建設は長期ビジョンである「Vision2030」を2021年に策定。「0へ挑み、0から挑み、環境と感動を未来へ建て続ける。」を掲げ、ゼネコンとして「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」という価値を提供しようと活動しているところです。また長期経営計画として、事業ポートフォリオの変革も推進しています。

とはいえ、社内リソースだけで長期ビジョンと長期経営計画を実現するのは簡単ではありません。そこでオープンイノベーションを推進するために、10年・50億円のCVCファンドを2022年に組成しました。現在は長期ビジョンと長期経営計画とのシナジーがあるスタートアップに出資をしています。

西村(東急建設): 上図は2024年3月時点のポートフォリオで、非公開の1社を含め、合計7社に投資をしています。図の下半分は海外(アメリカとカナダ)の会社となっているように、国内だけでなく、海外にも投資する点が東急建設CVCの特徴です。

三渕(東急): 改めまして、東急フューチャー・デザイン・ラボ統括部長の三渕 卓です

フューチャー・デザイン・ラボのミッションは3つあります。即ち「社内起業育成制度」「オープンイノベーション」「新領域探索」です。電車に乗る方や賃貸不動産、各種会員など、東急が保有するアセットを上手く活用するべく活動しています。

本日の主題は2つ目の「オープンイノベーション」。この活動の一つが、TAPです。他には、2023年から試験的にスタートした「JTOS」という活動も実施しています。これはJR東日本スタートアップ株式会社、小田急電鉄株式会社、株式会社西武ホールディングス、東急の鉄道系4社で構成される鉄道横断型社会実装コンソーシアムです。各社はそれぞれでオープンイノベーションの取り組みをしていますが、4社が協力することで、より大きな成果創出を狙おうとし、タッグを組みました。

評価の理由は、アセットの広さとスタートアップへの寄り添い

さて、本日のイベントのタイトルにもあるように、東急グループは「Morning Pitch大企業イノベーションアワード2023」で1位に輝きました。本賞の主な評価項目は「企業アセット」「人」「ファイナンス」「実績・コミットメント」です。これらを総合的に評価いただき受賞できたのですが、佐藤さんと西村さんはどのような点を評価していただいたと思いますか?

佐藤(東急不動産HD): まず「企業アセット」の影響が大きいのではないでしょうか。東急不動産HDの従業員にはよくあることですが、我々は色んな方から「XX線をよく使っています」「百貨店によく行っていました」なんてことを言われるんです。実際、東急グループは不動産や建設、電鉄、百貨店などあらゆる領域をカバーしていますよね。それが「東急に行けば何かできるかもしれない」という期待値を高めてくれているのだと感じています。

三渕(東急): 確かに、東急は「領域が広い」というイメージが強いですよね。

佐藤(東急不動産HD): また多岐に渡るアセットを、TAPというシステムが有機的に繋げてくれているのも、グループの大きな価値になっていると感じています。以前は何か問い合わせしたくても、同じグループにも関わらずどこに連絡していいかわからないといったことが間々ありました。ですがTAPが横の繋がりを作ってくれたことで、グループ各社へのアクセスが容易になったんです。

外部から問い合わせがあったときも、「それは不動産」「不動産より建設の方がニーズが高そう」なんてTAPが捌いてくれるじゃないですか。通常なら問い合わせがあっても自社と関係がなかったら門前払いして終わりですよね。それをTAPが、上手くスタートアップフレンドリーな状況にしてくれていると感じています。

三渕(東急): 実は私は2年前フューチャー・デザイン・ラボに来たんです。それでTAPの活動を覗いてみたら、各社の担当者が自分たちの課題はもちろん、スタートアップのことをちゃんと理解できていて、昔のイメージと比べてそのレベルアップに驚きました。毎月のピッチややりとりの精度も以前よりはるかに上がっています。

三渕(東急): 西村さんは受賞について、どの点が評価されたと感じていますか?

西村(東急建設): 東急グループ全体が評価された部分と、各社が評価された部分があると思います。

東急グループ全体としては、佐藤さんが語ったように、企業アセットやTAPを通してスタートアップに寄り添っている点が評価されているのだと感じます。

一方で東急建設が東急グループの一員としてどう貢献できたかを考えると、先述したように我々は2021年に長期経営計画を策定し、イノベーション推進部をつくり、新規事業開発やCVC活動を推進してきました。新規事業開発については隣のチームが取り組んでいて、例えば株式会社アイリッジとは、「工具ミッケ」というサービスを共同開発しています。

西村(東急建設): 私が担当するCVCは2022年から始めたものなので、今回の順位にどこまで貢献できているかはわかりませんが、ファイナンス面でも連携を深めていこうとしている姿勢は評価に繋がっていると思います。

何をやっているの? リソースは? オープンイノベーション実行の課題

三渕(東急): 新しいことに取り組むオープンイノベーションチームは、得てして会社の中で浮いてしまうというか、周囲から「何をやっているんだろう」と思われかねません。お2人はいかがですか?

西村(東急建設): 会社としてオープンイノベーションや新規事業に取り組んでいくというビジョンを立てているものの、各事業部は今の目の前の仕事に集中しているので、すぐに舵を切れるというわけではありません。そのため、「CVCって何?」と問われてから回答するのではなく、「CVCではこういう活動をしています」「こういうスタートアップに出資しました」「こういうことを一緒にやりませんか」と、各事業部に働きかけていくことは大事だと考えています。

佐藤(東急不動産HD): 私たちも2017年からCVC活動をしていますが、「何をやっているんだろう」と思われてしまうのを乗り越えるためには、日々の活動の積み重ねしかないですね。

西村さんと似た話になりますが、我々の「グループ企画戦略部」も、部署名だけ聞くと何をやっているか想像がつきません。社内でも、今になってようやく「この部署はスタートアップや大学と連携しているらしい」ということが従業員に認知されてきて、積み重ねの成果を感じています。

最近は事業部側から「こういうスタートアップを知らないか?」と問い合わせが来るようになってきたので、このまま活動を継続し、大きな流れにしていきたいです。

TAP2023 DemoDay開催後は、懇親会も実施。
写真左は東急の三渕、右は最優秀賞を受賞した株式会社フードリボンの宇田悦子さん。

三渕(東急): オープンイノベーション活動に臨む上で、困っていることはありませんか?

佐藤(東急不動産HD): 私たちの部署はオープンイノベーションにフルコミットできるので問題ありませんが、事業部の皆さんは、元々の本業とスタートアップとのオープンイノベーション活動を並行させています。その調整をどうするかは、我々としても苦慮しているところです。

西村(東急建設): その通りですね。我々はCVCとして不確実性が高い領域に出資しているものの、出資後にシナジーを生み出そうとすると事業部との協力が不可欠です。その際に問題になるのは、佐藤さんがお話したようなリソースの問題。今の仕事だけでも人手不足なのに、どうやってリソースを引っ張ってくるか。正直に言って、ここは苦労している点です。CVCチームとしても人員を増やすことで、協業をスムーズにできる体制を整えようとしています。

三渕(東急): 人手不足という意味では、今いる社員だけでは限界があるので、中途採用を増やしていく必要性も感じています。東急のオープンイノベーションに必要な人材や資質はどのようなものでしょうか。

佐藤(東急不動産HD): オープンイノベーションという性質上、新しいことが好きなことは絶対条件でしょう。また私は東急グループに「寛容」なイメージを抱いています。そのため、親しみやすさがにじみ出ている方は合うのではないでしょうか。とはいえ単に優しいだけは物事は前進しません。同時に熱量をもっていることも必要だと感じます。

西村(東急建設): ポジティブさが大事だと思います。例えばCVC活動においてネガティブさが前面に出てしまうと、いいシナジーが思い浮かばないんです。大雑把でいいので、色んなことをポジティブに考え、人を巻き込んでいける方が、この仕事には合っていると思います。

グループとして長期的なオープンイノベーションをどう描くか

三渕(東急): オープンイノベーションは20~30年という長期的な世界観を描くことも仕事の一つかと思います。今後はTAPでも、より長期的な視点を強めていきたいと考えています。

西村(東急建設): 短期的に成果が出ることは、事業部も比較的取り組みやすいと思います。そのため、CVCとしては逆に長期的・飛び地的な案件を担当するという役割分担にしたいですよね。

佐藤(東急不動産HD): まさしく。三渕さんが紹介してくれたJTOSの取り組みも、電鉄事業者が長期的により大きな成果を出すための取り組みですよね。東急も、グループとして長期的な未来を描いてもいいのではないでしょうか。

三渕(東急): 確かにそうですね。東急グループ各社で描いているものに加え、TAPに関わっている企業で長期のビジョンを描いてもいいかもしれません。これは最後に、いい示唆をいただきました。

三渕(東急): 本日は佐藤さんと西村さんに、各社のオープンイノベーションについて色々と教えていただきました。東急グループでは、今後もグループの総力を挙げてオープンイノベーションに取り組んでいきます。スタートアップをはじめ、大企業や行政など、東急グループとの連携に関心のある方は、遠慮なくお問い合わせください。本日はありがとうございました。

佐藤西村: ありがとうございました。

登壇者経歴等詳細:
三渕 卓
東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 統括部長
東急に入社して以来30年弱公私にわたり「これからのまちづくり」を追い続ける。
最近では「出張みぶちBAR」を主宰し、様々な企業が保有するカフェやイベントスペース、古民家、地方都市拠点などを利用して、全国での「信頼関係人脈」の創出に挑戦している。

佐藤 文昭
東急不動産ホールディングス株式会社
グループCX・イノベーション推進部 イノベーション戦略グループ
2008年東急不動産入社。オフィスビル事業に従事したのち、2016年より米国現地法人へ出向し、ニューヨークに駐在。
2021年より現職。CVCによるスタートアップ企業への出資、社内外を巻き込むオープンイノベーションの推進、新規事業の立案等を行う。

西村 美砂子
東急建設株式会社 価値創造推進室 イノベーション推進部 オープンイノベーショングループ
2022年に創設したCorporate Venture Capital “Tokyu Const-GB Innovation Fund(TCIF)”を運営。
国内外のイノベーティブなスタートアップ探査・出資・その後の東急建設との連携体制構築を主に担当している。
前職は新卒から11年間自動車メーカーに勤め、海外営業、イノベーション推進、経営戦略等多岐にわたる業務に従事。

(執筆:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)