多様性が大事だから、オープンイノベーション。
ライフスタイルとホテルが一体化する時代を考える
|TAP Inside|東急ホテルズ

2022年4月22日

東急グループとスタートアップとのオープンイノベーションを加速させるべく2015年に誕生した東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月、東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)。これまで90件のテストマーケティングや協業、うち31件の事業化や本格導入、うち7件の業務・資本提携を実現してきました(2022年3月末時点)。

そこでTAPでは、スタートアップとの協業を実現してきた東急グループ各社に、これまでの取り組みや業界の見通し、オープンイノベーションで創りたい未来について、TAP Insideと題してインタビューを実施します。

今回登場するのは東急ホテル・エクセルホテル東急等のホテルを全国にチェーン展開する東急ホテルズ。旺盛なインバウンド需要による好況を背景に2015年以降には積極的な設備投資をしてきたものの、コロナ禍で業績は急ブレーキ。また近年はライフスタイル型等、新しい形態のホテルも登場。東急ホテルズも新たな事業の在り方を模索しています。

社長の村井 淳と、ベンチャー連携の窓口である加藤 玲に、東急ホテルズの新しいことへの挑戦や、オープンイノベーションへの考え方について聞きました。

※本インタビューは2022年3月に実施し、情報はその時点に基づいています。

コロナ不況と、ライフスタイル型ホテルの登場

東浦(TAP): 本日はよろしくお願いします。東急ホテルズはオープンイノベーションへどの程度関心をもっているのでしょうか。

村井(東急ホテルズ): 東急ホテルズは東急ホテル、エクセルホテル東急、東急REIホテルといった3つのホテルブランドを展開している会社です。ホテル業界は今、新型コロナウイルスの影響を受けて、最も厳しい事業の一つかもしれませんね。そのような環境下、お客さまのホテルの使い方や期待が変わってきているのを感じています。ホテルというものの在り方を考え直さなければならないという意味では、ホテル事業の外にある発想も積極的に取り入れていく必要があると考えています。

加藤(東急ホテルズ): ホテルの機能や役割が変化していく中で、まだ取り組み始めてからは日が浅いものの、TAP等のオープンイノベーションには関心を寄せ、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。

東浦(TAP): なるほど。お二人はずっとホテル業界の方なんでしょうか?

村井(東急ホテルズ): 私は昭和60年(1985年)に東京急行電鉄(現・東急)に入社し、2012年から1年間横浜ベイホテル東急で副総支配人を務めました。その後、東急の人事や東急バスを経て、2021年に東急ホテルズへ戻り、社長に就任しました。

▲ 村井 淳 (Murai Jun)
株式会社東急ホテルズ 代表取締役社長

1963年生まれ、85年東京急行電鉄(株)(現・東急(株))入社、社長室秘書広報部、グループ事業本部などを経て、2012年(株)東急ホテルズ取締役執行役員(経営企画部長・CS推進室長)、13年同社取締役執行役員・横浜ベイホテル東急副総支配人を歴任。14年東京急行電鉄(株)人材戦略室副室長、18年同社取締役執行役員人材戦略室長、20年東急バス(株)代表取締役副社長、21年 2月(株)東急ホテルズ代表取締役社長に就任、現在に至る。

加藤(東急ホテルズ): 私は2015年に当時の東急電鉄に入社をいたしまして、研修の後すぐに東急ホテルズに出向しています。マークシティにある渋谷エクセルホテル東急でフロント業務に1年間従事した後、東急ホテルズの本社に異動してきました。5年程前から経営管理業務を担当し、今はオープンイノベーション担当としてTAPにも関わっています。

東浦(TAP): 元々ホテルには興味があったのですか?

加藤(東急ホテルズ): 申し上げにくいのですが、あまりなかったです(笑)。偶然配属されたのですが、今はホテル事業の奥深さに魅了されています。

▲ 加藤 玲(Kato Ryo)
株式会社東急ホテルズ 経営管理部 兼 構造改革推進室

1992年生まれ、2015年東京急行電鉄(株)(現・東急(株))入社。入社後は(株)東急ホテルズに出向し、渋谷エクセルホテル東急でフロント業務に従事。その後、同社マーケティング部を経て経営管理部に異動し、計画/予算策定・管理、会議体運営、各種戦略策定、新規事業推進 等の業務を担当。 2021年より構造改革推進室を兼務し、全社の構造改革推進に携わる。

加藤(東急ホテルズ): 私が配属された当時はホテル業界も好況でしたが、今は厳しい時代になっています。村井が申し上げたように、ホテルの環境変化が激しいからこそ、オープンイノベーションで様々なことに柔軟に取り組まなければならないと痛感しているところです。

東浦(TAP): 私は東急の中では不動産開発の経験が長いのですが、10年程前まではホテルは優先順位が高くなかったんです。「商業ビルを作るかオフィスを建てるか」「郊外ならどんな住宅を作るか」という議論をして、その後にホテルが議題として上がってくるというイメージでした。それがある時を機に急にホテルの優先順位が上がったんですよね。ホテル側からみても潮目の変化はありましたか?

村井(東急ホテルズ): ひとつの潮目はやはりインバウンド観光客の増加です。ホテルの需要が急激に上がりました。また2010年代の後半、特にコロナ前夜はホテルという宿泊事業だけでなく、サービス付きのアパートメントのような「住む」や「使う」を兼ねたまさにライフスタイル型施設の需要が高まった時代だと認識しています。

東浦(TAP): インバウンド観光客は年々右肩上がりで、2018年には大台の3000万人を突破していましたね。当時は設備投資も積極的だったんじゃないですか?

村井(東急ホテルズ): 景気のよかった2016~2018年頃は、東急ホテルズはチェーンとしての評価の引き上げ、特に設備投資にお金をかけていました。ただ今から思い返すと「お客さまが増えます」「インバウンドのお客さまを迎えなきゃ」といった短期的な話だけではなく、もっと色々な選択肢やリスクを考えるべきではありました。

東浦(TAP): ホテルは星の数ほどあって、インターネットが出てきてからはどのホテルも検索できるようになり、競争が激しくなりました。この状況をどうみていますか?

▲ 東浦 亮典(Touura Ryousuke)
東急株式会社 執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌

1961年東京生まれ。1985年に東京急行電鉄株式会社(現在、東急株式会社)入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。その後一時、東急総合研究所出向。復職後、主に新規事業開発などを担当。現職は、執行役員 沿線生活創造事業ユニット 兼 フューチャー・デザイン・ラボ管掌。主な著書に『私鉄3.0』(ワニブックス刊)がある。

加藤(東急ホテルズ): 競争の激化に伴い、多様性のあるホテルが増えています。hotel koe tokyo(2022年1月に閉館)やTRUNK(HOTEL)に代表されるように、異業種からの参入が増えました。彼らはホテルをホテルとして利用していただくというよりは、ショールームやイベントスペースとして使ったり、競争の仕方が違うと感じています。

村井(東急ホテルズ): 「ライフスタイル型のホテルとはどういうものか」という問いを考えなくてはなりません。

デザイン性やサードプレイス感といった要素が大事だ、なんて意見も出ていますし、実際そうだとは思います。しかし、そのあたりは社内ではわざと余白を残す形にしているのです。なぜなら、ライフスタイルは個人個人で違うものだから。逆に多くの人に受け入れられたら、それがライフスタイル型と言えるのかといった疑問も出てきます。かといって、個性的であることを強調すればいいのかというとそういうわけでもないのが難しいところですね。

多様性を意識して作ることが大事なのは理解しています。ただこれは、東急ホテルズが今まで強みとしてきたチェーンオペレーションとも異なる価値観です。これが今後の展開として重要な論点になってくるのは間違いありません。

東浦(TAP): 以前、群馬県前橋市のリノベーションしたホテルに宿泊したんです。市街地の中に急にカッコイイホテルがあるものだから、名所みたいになっていたんですよ。お昼時にかなりの人がいた。こういうやり方もあるんだなと感心したことを思い出しました。これもライフスタイル型ホテルの一環ですね。

加藤(東急ホテルズ): そうですね。地方にも面白いホテルは出てきているので、チェックしています。

ニーズの変化に対応するホテル

東浦(TAP): さてそんな環境の中、東急ホテルズもオープンイノベーションに取り組んでいます。まだオープンイノベーションに取り組んで日が浅いとのことですが、既に事例はありますか?

加藤(東急ホテルズ): わかりやすいところでは、Ostay社と清掃のクラウドソーシングで協業しています。

先程も話がありましたが、東急ホテルズはずっと設備投資してきたことや、東京オリンピック・パラリンピックの開催も見据えて人材採用も強化してきたこともあって、コロナ禍においては固定費が経営に重くのしかかっています。客室等の清掃要員を抱えると固定費になりますが、クラウドソーシングを使って必要なときに必要なだけ仕事をお願いすれば、コストが変動費化されます。そこで、東急ホテルズの客室清掃を請け負う子会社(東急ホテルパートナーズ社)にて、クラウドソーシングによるハウスキーピング&オンデマンドサービスを提供しているOstay社と提携することにしました。

東浦(TAP): 客室が年中8~9割稼働していれば自社で清掃する方を確保してもいいけど、ボラティリティが高いなら必要な時だけスポットで清掃をお願いしたほうがいいというわけですね。

村井(東急ホテルズ): その通りです。コロナ禍で平日のビジネス需要が蒸発した一方で、休日間近には需要が高まる、という状況が見て取れます。この取り組みは始まったばかりでまだ効果を検証しているところですが、期待しています。

加藤(東急ホテルズ): 先程の新しいホテルの在り方といった話にも関わるのですが、ロビーの使い方も気になっているところです。例えば、2018年に開業した川崎キングスカイフロント東急REIホテル。まさにライフスタイルを意識したホテルですが、2022年に多摩川スカイブリッジが開通して羽田空港へのアクセスがよくなりました。ただ、ここには広いロビーがあるのですが、ここが上手く使えていなかったんです。そこでイベントを開催したり、空間を上手く活用するようなアイディアはもっと考えていきたいと思っています。

川崎キングスカイフロント東急REIホテルのロビー

東浦(TAP): ライフスタイル型のホテルは、コミュニティスペース等もありますからね。外部の方とイベント等を開催している印象もあります。

村井(東急ホテルズ): ホテルは昔から外注文化で、外部のいろいろな人に仕事を頼みながら、それを組み立ててホテルというサービスを築いてきました。だから元々外部の方と協力体制を組むという文化はあるんです。

ただ、どうしても「ホテルは宿泊するもの」という固定観念は拭えません。ライフスタイル、住む、働くといったことをお客さまが求めているのならば、我々は変わっていかなければならない。そうするとやはり自分たちの発想だけではダメで、外部の方々と協力して新しい文化を作っていかなければならないと考えています。

東浦(TAP): 東急(株)が手掛ける「TsugiTsugi(ツギツギ)」という定額制回遊型住み替えサービスや、アクティブシニア向けの渋谷ホテル暮らし1年間プラン「ロングステイ 365 days」が人気のようですね。これらも今までと異なる、新たな取り組みだと感じています。

村井(東急ホテルズ): ツギツギはホテルの既存の仕組みやシステムはそのまま、お客さまのホテルの使い方を変えたサービスです。複数のホテルを回るような、旅するような暮らし方が体験できます。

他にも例えば「電車が好き」「バスが好き」「地方の飲み屋を回るのが好き」といったように、特定の趣味や嗜好を持つ方は大勢います。そういう方に対して我々のようなチェーンオペレーションホテルが、ファン心理をくすぐるような情報を提供する仕組みが作れないか、ということをツギツギの皆さんと議論しています。

お客さまの変化に対して事業・ビジネスモデルといった観点から新たな付加価値を提供できるのはホテル事業の特性だと思っているので、どんどん他の可能性を見つけていきたいと思っています。

オープンイノベーションと多様性

加藤(東急ホテルズ): お客さまの変化に対応していこうという話は社内でも議論を重ねています。リモートワークの常態化によりオフィスの縮小が進行する中で、ホテルはどういう位置づけになれるのか。「どこで働いてもいいなら、ホテルに住まい、ホテルで働きたい」という需要が出てきていると認識していますし、だったら我々は生活の基本的な機能を備えたホテルを用意しなければなりません。

東浦(TAP): 東急の労務規定が変わったこともあって、私、白馬でワーケーションを試してみたんです。ホテル側も歓迎してくれました。ただ「毎回この食事はちょっと重いし、今回は軽くていいんだけどな」「椅子がずっと仕事するには固いな」と、ホテルを使い続ける課題も感じました。実験だからまだ仕方ないのですが、使ってみてわかることもあるなと感じているところです。

村井(東急ホテルズ): ホテルは「ハレの日・ハレの場」というイメージが強いですからね。ワーケーションは通常の利用とニーズが違うので柔軟性が必要だと思いますし、もしかしたらその先にあるのは「ホテル」という名前の事業ではないのかもしれません。

東浦(TAP): 知人の弁護士が、地元である帯広の衰退を嘆いて、自分でホテルを買取りリノベーションして運営し始めちゃったんです。ただ、ホテルを運営してもしょうがないということで、慣れないながら帯広の地ビールや馬車でお酒が飲める馬車バーを作ったり、犬ゾリツアーを企画したり……。ホテルの中だけでなく、とにかく町の魅力を高めようとしているんです。小回りが利くし、常識にも囚われない。こういう点は東急ホテルズでも参考になるんじゃないかと思いました。

村井(東急ホテルズ): なるほど、参考になります。ホテルの価値は街の魅力に支えられていますからね。

東浦(TAP): ベンチャー企業との協業を考える際、東急グループ・東急ホテルズが弱い点はDXです。他社のホテルチェーンだと、サイトから予約をしてノータッチでチェックインできたり、清掃を頼んだりといったことができるところもありますね。人によっては、便利・安全・早いといって評価されるだろうなと感じています。東急ホテルズはこのあたりにはどうのように取り組んでいますか?

加藤(東急ホテルズ): DXという意味では、東急ホテルズの全店舗(フランチャイズ等の一部店舗を除く)で、スマートフォンを使ったチェックインができるようになっています。

もちろんお客さまの利便性を考えてのことですが、そもそもチェックイン業務自体が、そんなに付加価値を生んでいないと考えて、導入に踏み切りました。チェックイン以外にも、付加価値を生んでいないところはどんどんデジタル化していったほうがいいと考えていて、いま議論しているところです。他方で、お客さまが心を動かされる部分については、外部の力をお借りしながら、引き続き取り組んでいかなければならないと思っています。

東浦(TAP): ベンチャー企業からすると、技術もアイディアも資金もあるので、サービスを導入・実装・試す機会が欲しくて、その場としてTAPを使ってもらっています。東急ホテルズとしては、そういうものを受け入れる土壌や文化はどうですか?

村井(東急ホテルズ): 面白い施策は積極的にやっているんです。例えば先日は、明治さんとのコラボレーションで、東急「REI」の「E」を「-(ハイフン)」に変えると言って、部屋をまるごと(明治の商品の)R-1一色にする、という取り組みをしました。

R-1仕様になった一室(image:東急ホテルズ)

村井(東急ホテルズ): 明治さんもホテルの一室をショールームのように考えて、両社で作り上げていきました。実際に宿泊していただいた方もかなりいるんです。

他にも三代目 J SOUL BROTHERSルームを地方の拠点に作ったりしています。東京のコンサートにはなかなか行けないけど、ファン同士でこの部屋に泊まって世界観に浸るわけです。しかも、我々の宣伝とは別のところで、コアなファンがSNSでこの部屋の魅力を拡散してくれる。今までは多くの人に売れるものを作ろうとしてきましたが、狭いけどコアなファンがいるところを掘る必要性も感じます。

こういった自宅の延長のようなホテルの使い方みたいに、新しいホテルの使われ方を試験的に繰り返しているわけです。正直に言うと、私は「本当にこれ売れるのかな」と心配していたのですが(笑)、これが売れるんです。だからこそ、考え方の多様性は大事だなと認識しています。

東浦(TAP): 東急ホテルズはコンフォートメンバーズという会員組織を持っていますよね。これはどう使っていますか?

村井(東急ホテルズ): 会員数は約70万人で、かなりの数なのですが、顧客の視点でもっと魅力をつけたいですね。

東浦(TAP): 東急ストアが最近、LINEでの取り組みを重視していて、効果が出てきているんです。その中で景品として「東急ホテルズでのお食事券や宿泊券」を提示すると、ものすごく反応があるらしいんですよ。そのため、ホテルとしても何か取り組みをすれば「えっ、ホテルで食事できるの?」「こんなプランで泊まれるの?」といって、お客さまに響くプロモーションになるのかなという気はします。

村井(東急ホテルズ): なるほど。自分達が実現したいことをホテルというサービスの中で実現できる可能性はまだまだあると思います。

ホテル業界は、ホテルが好きでホテルの仕事に就いている方が多い。しかし現在は事業が苦しいこともあって、特に若い人の気持ちがホテル産業から離れています。そういう方々に「まだまだホテル業界は楽しいんだ」「自分達が価値あると思っていることを実現できるんだ」と思ってもらわなければいけません。

そのためには外の方の知見を借りたり、我々が外を向いて新たな企画の可能性を探ったりしないといけない。そのためにオープンイノベーション、TAPというものを上手く使っていきたいなと考えています。

東浦(TAP): ありがとうございます。素晴らしいまとめでした。是非「人」にフォーカスして、良いブランディングをしていただければと思います。村井社長、加藤さん、本日はありがとうございました。

村井加藤(東急ホテルズ): ありがとうございました。

▲ 左から東浦(TAP)、村井(東急ホテルズ)、加藤(東急ホテルズ)。右はTAP事務局の吉田。

(執筆・編集:pilot boat 納富 隼平、撮影:ソネカワアキコ)