お客さまと簡単に繋がり、新しい移動需要を生み出す。
SUSHI TOP MARKETINGと東急電鉄のNFT×マーケティング施策
2025年11月14日
東急グループとスタートアップのオープンイノベーションを加速させるべく2015年に誕生した東急アライアンスプラットフォーム(2021年8月に東急アクセラレートプログラムから名称変更。以下「TAP」)から生まれた協業事例を紹介します。今回登場するのは、SUSHI TOP MARKETING株式会社と東急電鉄株式会社です。
SUSHI TOP MARKETINGはNFTのマーケティング活用を提案するスタートアップ。これまで東急電鉄とは、東急新横浜線開業記念でのNFT配布や、NFTを用いたスタンプラリーで協業してきました。これらの施策により、東急電鉄のマーケティングやお客さまとの繋がりは何が変わったのか。SUSHI TOP MARKETING代表の徳永大輔さんと、東急電鉄の平澤侑樹さんに話を聞きました。
※以下、会社法人種別(「株式会社」などの表記)を省略します
NFTをマーケティングに活用
―― 最初に、SUSHI TOP MARKETINGについて教えてください。
徳永(SUSHI TOP MARKETING、以下「STM」): SUSHI TOP MARKETINGは、NFTバブル真っ只中の2021年に創業しています。当時はNFTを所有する方のほとんどが投機目的でしたが、その時代から我々は一貫して、NFTのデジタルマーケティングへの活用を提案してきました。
ちなみに社名の由来は、私の友人が板前で、仮想通貨で決済できるお寿司屋さんを渋谷で始めたことにあります。渋谷のIT・暗号資産系の方がたくさんお店に来てくれたのでNFTをおまけで渡していたら、界隈で話題になったんです。NFTはもしかして新しいマーケティング手法になり得るのではないか。そう考えてSUSHI TOP MARKETINGと名付けました。
SUSHI TOP MARKETING株式会社 FOUNDER CEO
出版社に新卒入社後、独立。SEOメディアで起業し事業売却。トークングラフマーケティングの文化創造がミッション
徳永(STM):さて、NFTを受け取る際、通常はウォレットを用いなければなりません。一方でSUSHI TOP MARKETINGはアカウントレスを強みとしていて、ウォレットのインストールなしに、QRコードをスキャンするだけでNFTを受け取れます。受け取ったNFTは簡単に閲覧可能です。
―― SUSHI TOP MARKETINGはどのようなサービスを提供しているのでしょうか。
徳永(STM): NFTマーケティングSaaS「トークングラフマーケター」がSUSHI TOP MARKETINGのメインソリューションとなっています。これは言わばブロックチェーン版のSalesforceのようなサービスです。
東急電鉄のように、NFTをマーケティングに大量に活用していると、だんだんとその量が膨大になっていき、配布したNFTの分析が難しくなっていくという現象が起きてしまいます。そのような場合でも、トークングラフマーケターなら簡単にNFTの分析が可能です。併せて、ブロックチェーン上のトークングラフ分析に特化した生成AIエージェント「NIGIRI AI」も開発しています。
またSUSHI TOP MARKETINGは電通と共同で、ブロックチェーン技術を用いたイベントDXソリューション「みんなのあしあと」を開発しました。これを使えば、例えばテレビ番組でNFTを配布し、受け取った方がスタンプラリーに参加したかどうかなどが可視化できるようになります。テレビはこれまで視聴率経由でしか視聴者と繋がっていませんでしたが、みんなのあしあとを使うことで、他の繋がりも築けるようになっています。
徳永(STM): 2025年10月には、SUSHI TOP MARKETINGの株主であるセブン銀行との取り組みを発表しました。セブン銀行のATMで電子マネーチャージをするとNFTがもらえるのですが、そのNFT受け取り導線は、東急電鉄の仕組みを活用しています。
ATMに加えて、駅や施設で配布している3種類のNFTを受け取ると、コンプリート特典として、3つの景品がもらえるチャンスがあります。その内の一つが『東急電鉄のデジタルチケットサービス「Q SKIP」で使える東急線ワンデーパスクーポン』となっています。端的にまとめると、「NFTを集めれば切符がもらえるチャンスがある」ということですね。
―― なぜ東急電鉄がこの座組みに参加したのでしょうか。
平澤(東急電鉄): 東急電鉄では、NFTを顧客接点の獲得や継続的な関係構築のツールとして活用しています。駅というリアル拠点を持つため、東急電鉄内で完結してNFTを配布する方法も取りえます。しかし、セブン銀行のATMは1日約250万人が利用しており、その中には沿線外の方も多数含まれます。このプロジェクトに参加することで、そうした方々とも新たな接点を生み出せる可能性があると考え、セブン銀行・SUSHI TOP MARKETINGとの3社連携での企画実装に取り組むことにしました。
東急新横浜線開通記念のNFTを配布
―― SUSHI TOP MARKETINGと東急電鉄が協業することになった経緯を教えてください。
平澤(東急電鉄): 私は元々、東急多摩川線・池上線の運転士だったんです。2020年のコロナ禍では、ホームにお客さまが誰もいない状況で運転していて、「さすがにこのままでは会社が危ない」という危機感を抱いていました。
東急電鉄株式会社 鉄道事業本部 技術戦略部 イノベーション推進課
2008年に「東京急行電鉄(現:東急)」に入社駅務係、東横線車掌、東急多摩川線・池上線の運転士兼車掌を歴任。NFTに注目し、2022年に社内提案制度にて同施策を提案2023年に東急電鉄NFT Projectをローンチ。
平澤(東急電鉄): 一方で当時は、「NFTがX億円で取引された」なんてニュースが話題になっていた時期です。東急電鉄も、のるるんや鉄道車両というリソースがあるのだから、NFTを上手く使えばビジネスにできるのではないか、と考えました。
それで東急電鉄社内のデジタルにまつわる提案制度「デジタルアイデア直行便」を活用し、会社にNFT活用施策を提案しました。その流れで、TAP事務局を通じてSUSHI TOP MARKETING を紹介していただきました。
徳永(STM): 運転士の方とお話しする機会は滅多にないので、それが強く印象に残っており、最初のミーティングの内容はあまり覚えていません(笑)。ただ、会議を重ねる内に「2022年に東急が100周年を迎えるので、お祝いの一環でNFTを使いたい」なんて話が持ち上がり、気軽な顔合わせがだんだんと大事になっていったのは記憶しています(笑)。
平澤(東急電鉄): 今でこそNFTを使ってマーケティングをしていますが、当初はマーケティングの「マ」の字もありませんでした。むしろ「NFTを販売したら儲かる」なんて言われていた時代に、NFTを無償で配るなんて想像すらしていませんでした。
―― 両社の最初の取り組みについて教えてください。
平澤(東急電鉄): 当時、NFTは投機目的での流通が主流でしたが、当社においては、企業ブランドの観点や法務整理の観点など、様々なハードルがありました。そこで、まずはNFTを無償で配布し、世の中の反応を丁寧に見極めることにしました。
結果的に、東急新横浜線開業に合わせ、3D車両デザインなど、計4種類のNFTを無償配布するということで着地しました。
徳永(STM): 私も新横浜線の開業日に駅を訪れました。生憎の雨にもかかわらず、37年ぶりに東急の新駅が誕生するとのことで、大勢の方が来ていて驚いたのを覚えています。NFTもQRコード経由でどんどん取得され、1日で取得された数は1万を超えました。SNSでも話題になって、鉄道ファンの熱量を感じましたね。
平澤(東急電鉄): 正確に計測したわけではありませんが、NFTが好きな人ではなく、鉄道好きの方が記念にNFTを受け取っていたようです。クリプトギークではなく、一般の方に喜んでいただけたのは個人的にも嬉しかったですし、NFTの可能性も感じられました。
スタンプラリー×ブロックチェーンで築いた、新たなデジマ
―― その後はどのようなプロジェクトで協業を築きましたか?
平澤(東急電鉄): 鉄道愛好家の間では、「Nゲージ」という鉄道模型が広く親しまれています。しかしながら、結婚や子どもの誕生などライフステージの変化に伴い、設置スペースの確保が困難になるケースが多く、この趣味を継続できなくなる方も一定数存在します。
徳永(STM): スペースが必要なので、家の中に模型を置けないんですね。
平澤(東急電鉄): はい。そこで、仮想空間でNゲージを走らせたら面白いのではないかと考え、3D車両NFTを走らせられるデジタル空間「NFTゲージ」をSUSHI TOP MARKETINGと共同開発しました。新横浜線開業イベントなどで配布したNFTを活用すれば、仮想空間内で3D車両を走らせられる、というものです。
徳永(STM): また、何回も一緒に企画しているのは、NFTを使ったデジタルスタンプラリーです。
平澤(東急電鉄): 紙を使ったスタンプラリーは、これまで継続的に実施してきました。しかし、紙のスタンプラリーでは、お客さまとの関係を長期的に維持することが難しいという課題がありました。そこで、NFTというデジタルの仕組みを活用すれば、一度築いたつながりを継続できると考え、NFTを取り入れたスタンプラリーを企画しました。
今のところ、NFTスタンプラリーは上手くいっています。これまでNFTを保有している方だけにキャンペーン情報を配信したり、限定コンテンツを提供したり、特別なイベントに招待したりしてきました。今後も東急電鉄の「ファン」が「コアファン」になっていただけるような施策を積極的に企画していきたいですね。
―― NFTを所有している方の反応はいかがですか?
平澤(東急電鉄): キャンペーン後に必ずアンケートを実施しているのですが、アンケート回答率は3~4割程度。満足度も非常に高く、ポジティブなコメントが数多く寄せられています。
徳永(STM): ロイヤルティが本当に高いですよね。一般的にキャンペーンから集まったユーザーは、ポイントのキャッシュバック狙いということも少なくありません。しかし東急電鉄のスタンプラリーには、本当に鉄道コンテンツが好きで、東急沿線への愛着や信頼を抱く方が集まっているようです。だからこそ、良いフィードバックも多いのでしょう。
例えば2年前のスタンプラリーに参加した方が、今回どの程度参加してくれたか、といった情報もNFTだからこそ把握でき、継続的な繋がりを可視化できます。ここからロイヤリティの高い顧客とファンベースを築いていきたいですよね。
―― NFTプロジェクトの反応は、予想通りのものだったのでしょうか?
平澤(東急電鉄): 正直、NFTと聞くとまだ敬遠されるのでは…と想定していました。しかし、結果は想像以上で、多くのお客さまがNFTを受け取り、ポジティブなフィードバックを寄せてくださっています。『次回の開催を楽しみにしています』『こんな企画はどうでしょう?』といった前向きな声も届き、嬉しいですね。
徳永(STM): 東急電鉄だけでなく、東急ストアを巻き込んだ企画も実施しました。「のるるんWater」という、東急電鉄駅の自販機には必ず売っている水があるのですが、それに付いているバーコード経由で、1日にNFTが1つもらえる、というものです。
紙のスタンプラリーに参加した方がどれぐらい駅構内で水を買ったかはわかりません。しかしこの施策により、その可視化ができるようになりました。つまり東急電鉄は、スタンプラリーに参加し、かつ飲料も購入してくれるお客さまとの接点を新たに把握できるようになったんです。
スタンプラリー×ブロックチェーンで、新しい販促・デジタルマーケティングの形ができてきました。今までと異なる層のお客さまがこの企画に参加していて、有益なデジタルマーケティング事例になったと自負しています。
電鉄から東急グループ全体や他社鉄道連携も視野に
── 協業時の苦労についても教えてください。
平澤(東急電鉄): 当社では、NFTに対する『投機ツール』というイメージを払拭するため、社内の理解を深めるための協議調整に時間を要しました。その過程も重要だったと考えていますが、もし当初の提案段階から、現在のような取り組みが実行できていたら、業界初の事例として大きな注目を集めていたかもしれません。新しい挑戦には、迅速な意思決定と行動も不可欠であると強く感じています。
── 今振り返ると、どうしたらもっと早く実行できたでしょうか。
平澤(東急電鉄): 「NFT」という単語を使ったからこそ伝わりづらかった面がありました。もっと簡易な表現「デジタル技術」や「DX」を用いた説明を行うなど、より伝わりやすい表現を意識したほうがよかったかもしれません。とは振り返ったものの、丁寧な対話を重ねてきたからこそ、現在、新たな施策を打ち出せているのも事実です。結果的に必要な時間だったとも感じています。
徳永(STM): 正直に言って東急電鉄は、色々な大企業と比較すると、スピード感のある方ではありません。インフラの会社なので仕方がない面もあるでしょう。
一方で、だからこそ求めるクオリティが高く、ご一緒する中で我々の品質も高まりました。サービスのUIも当初からかなり変わっています。また東急とのスタンプラリーは2年以上も続いていて、エンドユーザーや東急電鉄からの数多くのフィードバックが寄せられており、今ではそれらがSUSHI TOP MARKETINGのUXの根幹となっています。
ちなみに、「東急ともやっているなら、うちも話を聞いてみよう」と他社から声がかかっていることも、協業のメリットですね。
── 最後に、協業の今後の展開を教えてください。
平澤(東急電鉄): これまでは東急電鉄を起点にNFTを配布してきましたが、今後は東急グループ全体との連携も視野に入れています。たとえば、東急株式会社が進める沿線の街づくりと連動し、NFTを活用して地域に住む方々との新しいつながりを創出できる可能性があります。NFTの強みを活かしながら、地域の皆さまと一緒に東急エリアをさらに盛り上げていきたいと考えています。
ちなみに、他の鉄道会社と連携したスタンプラリーなども企画したいのですが、いかがでしょう?
徳永(STM): 東急電鉄のNFTの配り方は、実はSUSHI TOP MARKETING の中でもちょっと特殊なやり方をしているんです。通常はLINEだけで受け取れるのが弊社の強みなのですが、東急電鉄さんの場合はunWalletという別のウォレットを挟んでいます。
LINEだけで実施すると、例えば鉄道会社Aで受け取ったNFTと、鉄道会社Bで受け取ったNFTは、別のウォレットアドレスになってしまい、一覧性がありません。しかしunWalletが間にあることで、東急電鉄で受け取ったNFTと別の鉄道会社のNFTを同列に並べられるようになっているんです。つまり、鉄道会社間で連携したスタンプラリーの土台は既に整っているというわけですね。
平澤(東急電鉄): 鉄道ファンからすると、すべての鉄道がNFTで繋がっているように見えそうです。
徳永(STM): はい。東急電鉄の取り組みはおそらくグローバルで見ても珍しく、またNFTを活用した沿線施策としては、かなりの長期・継続的なものとなっているはずです。このやり方を別の鉄道会社に広げ、すべての鉄道ファンをNFTで繋いでいくことが、我々の次の野望ですね。
徳永(STM): とはいえ、ここまでNFTを強調してきたものの、実はSUSHI TOP MARKETINGのNFTを受け取っている方のほとんどは、それがNFTだと認識していないはずです。Web3勃興期にはみんながウォレットを保有するような世界観が想像されていましたが、我々は社会のシステムの裏側のデータベースやサーバーが、気づかないうちに静かにブロックチェーンに置き換わると予想しています。
NFTであってもそれを意識させることなく、これからも色んな施策を打っていきたいです。今後ともよろしくお願いします。
平澤(東急電鉄): 頼りにしています。こちらこそよろしくお願いします。
(執筆:pilot boat 納富隼平、撮影:ソネカワアキコ)