徹底討論!
東急が本気で挑む新規事業「TsugiTsugi」が描くオープンイノベーション戦略
〜次世代ライフスタイルの創り方 | イベントレポート

2022年6月17日

東急株式会社が本気で挑む新規事業「TsugiTsugi(ツギツギ)」。「旅するような暮らし」という時代の変化にマッチした、次世代ライフスタイルを実現するサービスです。そのTsugiTsugiは自社だけでなく、様々な企業と提携、つまりオープンイノベーションという手段を活用しながらサービスを運営しています。

2022年5月18日、東急はTsugiTsugi提携パートナーである「Anyca」を運営するDeNA SOMPO Mobility代表取締役の馬場さん、そしてTsugiTsugiのユーザーでもあるZホールディングス株式会社 Zアカデミア学長 伊藤羊一 さんをお迎えし、TsugiTsugiを題材にしながら「次世代ライフスタイルを創るためのオープンイノベーション」について考えるイベントを開催しました。本記事ではその様子をダイジェストで紹介します。

【登壇者(下写真左から、以下敬称略)】
・武居 隼人 東急株式会社 TAP(東急アライアンスプラットフォーム)事務局
・伊藤 羊一 Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長、グロービス経営大学院 客員教授、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長
・川元 一峰 東急株式会社 TsugiTsugi代表
・馬場 光  株式会社DeNA SOMPO Mobility 代表取締役/株式会社DeNA SOMPO Carlife 代表取締役副社長
・加藤 玲  株式会社東急ホテルズ

TsugiTsugiのオープンイノベーションパートナーが集結

武居(TAP): 最初に皆さんの自己紹介をお願いします。

伊藤(Zホールディングス): 伊藤です、よろしくお願いします。前職のプラス株式会社を経て、今はヤフーやZOZO等があるZホールディングスに所属し「Zアカデミア」という企業内大学で学長をしています。また武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長に2021年に就任しました。アントレプレナーシップ学部というのは全国で武蔵野大学にしかなくて、私も学生寮で暮らしています。

▲ 伊藤 羊一
Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長、グロービス経営大学院 客員教授、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長

川元(TsugiTsugi): 東急株式会社でTsugiTsugiの代表をしている川元です。よろしくお願いします。東急の社内起業家育成制度を使ってTsugiTsugiを立ち上げ、現在代表を務めています。

川元(TsugiTsugi): TsugiTsugiは定額制回遊型住み替えサービスです。旅するような暮らしを支えるプラットフォームで、現在173のホテルと連携し、37都道府県で利用できます。またAnycaをはじめ、カラオケやオンラインクローゼット等、13社と連携。単にホテルに泊まれるだけではないサービスを提供しています。

▲ 川元 一峰
東急株式会社 TsugiTsugi代表

馬場(DeNA SOMPO Mobility): 馬場です、よろしくお願いします。私は新卒でDeNAに入社し、2年目に車を買ったのですが、月に2回しか乗らずにもったいないと感じていたんです。当時Airbnbが日本に来てCtoCの認知が広がってきたこともあって、車をCtoCで提供できないかと思い、DeNAの新規事業としてAnyca(エニカ)を立ち上げ、現在はSOMPOホールディングス株式会社との合弁会社の社長をしております。

馬場(DeNA SOMPO Mobility): 本日のテーマのオープンイノベーション・アライアンスという意味では、AnycaはTsugiTsugiだけでなく、ステランティス ジャパンヒョンデ モビリティ ジャパン社と提携しています。彼らの車をAnycaから試乗できるようになっているんです。例えばヒョンデは、EVをディーラーを使わないで完全にオンラインで販売しています。とは言え車を全く体験しないで購入するのは怖い。なので車を買おうとする方はAnycaでまずEV車を体験してみる、というわけです。

▲ 馬場 光
株式会社DeNA SOMPO Mobility代表取締役

加藤(東急ホテルズ): こんばんは。東急ホテルズの加藤です。東急ホテルズは北は札幌から南は沖縄・宮古島までホテルを運営している会社です。

ホテル業界は新型コロナウイルスの影響で、利用者が激減しました。そこで東急ホテルズでは、ホテルを宿泊のために利用するだけでなく、ホテルに行くことそのものが目的になるような施策に取り組んでいます。

加藤(東急ホテルズ): これまでには例えば、「REI(東急REIホテル)」と「R-1」が似ているよねと言って明治プロビオヨーグルト「R-1」とコラボした部屋を作ったり、三代目J SOUL BROTHERSとコラボして彼らの世界観に浸れる部屋を用意したり、渋谷エクセルホテル東急を渋谷が舞台の映画「名探偵コナン」の劇中に出てくるホテル仕様にしたり、といったコラボをしてきました。このようなホテルの目的化は今後も進めていきたいと考えています。

▲ 加藤 玲
株式会社東急ホテルズ

TsugiTsugiを使う理由は人それぞれ

武居(TAP): みなさんありがとうございます。まず伊藤さんに伺いたいのですが、伊藤さんはTsugiTsugiのユーザーだと聞いています。どうしてTsugiTsugiを使うことにしたのでしょうか?

伊藤(Zホールディングス): そうなんです。数年前に偶然TsugiTsugiを発見して以来、ずっと使っています。今でこそ定額でホテルに泊まれるというサービスはいくつかありますが、2021年当時は私の知る限りTsugiTsugiしかありませんでした。良いサービスだなと思ってブログで紹介したら、川元さんに見つけてもらったんですよね。それでアンバサダー的にちょっとだけ使わせていただくことになったのが最初のきっかけです。

当時はコロナ禍真っ只中。リモートワークが推奨されはじめた頃で、私はちょうどワーケーションを何回か試していたんです。ただ、自分でホテルを探して予約するという作業が面倒で、元々「日本全国どこでも使える定額使い放題のホテル宿泊サービスがあったら最高!」なんて感じていたんです。それでTsugiTsugiいいなぁなんて思っていたら川元さんから連絡があったもんで、ちょうどよかったんですね(笑)。

最初はTsugiTsugiが提携している施設を何箇所か試してほしいとのことだったので、みなとみらいのホテルに宿泊してみました。これが僕にフィットした。それで次に宮古島に行ってみたのですが、これはバケーションにはいいけど仕事は難しいなと感じたんです。という具合に何回か使ってみて「僕ならどう使うか」という勘所がわかってきて、同時にTsugiTsugiが気に入ってきました。

講義が毎週大学であるのでその間はなかなか使えなかったのですが、2〜3月はそれもないということで、(アンバサダーではなく)改めてTsugiTsugiにちゃんと登録しています。余談ですが、申し込んだら川元さん達から「早く申し込まないと売り切れちゃいますよ!」「早く予約しないとダメですよ!」なんて煽られて、色々なところを予約させられました(笑)。

川元(TsugiTsugi): 違いますよ、せっかく自費でわざわざ買っていただいたんだから「なるべく早く予約して行きたいところに行ってくださいね」と言っただけです(笑)。

伊藤(Zホールディングス): そうでしたか(笑)。それでまた何回か宿泊してみましたが、僕は3泊くらいするのがちょうどいいですね。そのくらい宿泊すると近所の観光もできますからね。

加藤(東急ホテルズ): TsugiTsugiがあることで「じゃあこの地域に行ってみよう」「ホテルの周りを観光しよう」という動きが出てくるのは、ホテルや地域経済にとっても大きなメリットですね。

伊藤(Zホールディングス): そうですよね。私が勤めているヤフーもですが、テレワークやリモートワークが浸透してきて、今後居住地はどんどん自由になっていくはず。その中で「家は東京にあるけどTsugiTsugiを使って色々なところを旅しながら暮らそうかな」なんて人も出てくるのではないでしょうか。

川元(TsugiTsugi): その可能性はありますね。というのも、TsugiTsugiを使う理由は人それぞれなんです。移住先検討のために使われている方、お試し同棲されている方、リフォーム中の仮住まいにしている方、旅好きで30泊毎日違うホテルに泊まる方。人によって使い方が違うというのもTsugiTsugiの面白いところです。伊藤さんが言うように、色んな土地を訪れながら働くという人も出てくると思います。

伊藤(Zホールディングス): 皆さん、TsugiTsugiは本当におすすめですよ。

新しい取り組みが花開くには時間がかかる

武居(TAP): さて、伊藤さんにもオススメいただいたTsugiTsugiですが、その運営にあたってはオープンイノベーションの考え方を大切にしていると聞いています。

川元(TsugiTsugi): その通りです。TsugiTsugiは一言で表現すると「日本全国のホテルにどこでも泊まれる」というサービスです。ただこれだけだと長距離移動の手段確保や荷物の管理が不安になりますし、ずっとホテルの食事というのも辛いですよね。なので荷物管理は宅配型トランクルームサービスのサマリーポケットと手を組んだり、食事は東急フードショー、駅前で仕事ができる空間を確保するためにカラオケ館と提携しています。

川元(TsugiTsugi): 先程色んなユーザーさんが多様な使い方をしているという話をしましたが、だからこそTsugiTsugiには色んなリクエストがきます。ユーザーさんの声を聞いてサービスをより便利にしていきたいのですが、流石に全部自前で対応するというのは厳しい。なので他の事業者の力も借りるオープンイノベーションは当然の選択肢だったんです。

伊藤(Zホールディングス): カラオケルームをワークスペースにしたり、Anycaでカーシェアをできるようにしたりという施策の積み上げが参入障壁になっていくのは面白いですよね。ただ協業することでみんなの売上げが急にドカンと伸びていくという話ではないかと思います。なのでTsugiTsugiの連携にはビジョンの共有が大事だと推測したのですが、いかがですか?

川元(TsugiTsugi): おっしゃる通りです。そもそもお金だけの話って意外に難しいんです。重視するのが売上なのか単価なのか粗利をなのかも企業によって違いますし、常識や文化も異なります。でも大きな目標があってそれに共感してもらえば、少しずつでも前に進むことができるようになる。なのでビジョンの共有は必須ですね。

伊藤(Zホールディングス): 少しずつでも前に進むのは大事ですよね。結局新しい取り組みが花開くには時間がかかるんですよ。

先述したように、ヤフーは今テレワークが原則です。でもテレワークの仕組み自体は、10年前からあるんです。最初はテレワークできるのが月に2回までだったものが、いつからか月5回になり、コロナの影響もあって最終的に完全に自由になりました。

これは1社単体だけでなく、社会全体でも同じだと思うんです。今リモートワークしていない会社も、いずれはリモートワークが解禁されるでしょう。その時に向けてオープンイノベーションのネットワークを築いて準備しておくことが大事。みんながリモートワークを始めてから準備をしても遅いんですよね。

加藤(東急ホテルズ): 世の中の流れにどう対応するかは、ホテルとしても課題に感じています。リモートワークが原則になれば出張が減ってホテル需要が減るかもしれない。だったら変わった先のライフスタイルにホテルも適応しなくてはいけない。東急ホテルズもオープンイノベーションを通して変化していかないと考えているところです。

AnycaとTsugiTsugiの提携で創る体験

伊藤(Zホールディングス): TsugiTsugiとAnycaはどんな取り組みをしているんですか?

川元(TsugiTsugi): 現時点ではシンプルに、お互いのユーザーがそれなりの割引を受けられるというものです。今後ここから間口を広げてもっと色んなことができないかと思っています。

馬場(DeNA SOMPO Mobility): TsugiTsugiを使って色んな場所に泊まるとなると、どうしても車が必要になるケースがあります。常にマイカーで移動というわけにもいかないので、必要に応じてAnycaを使っていただきたいという意図で連携しました。

伊藤(Zホールディングス): ちなみにTsugiTsugiのユーザーとしては、AnycaというCtoCではなくレンタカーでもいいんじゃないですか?

馬場(DeNA SOMPO Mobility): その答えはAnycaが「CtoCのシェア」だという点にあります。つまり、オーナーさんさえいればAnycaは日本の隅々までどこででもシェアできるんです。レンタカーやカーシェアは、ビジネスモデル的に収益性の高い地域でしか運営できません。しかしCtoCのカーシェアなら1台からでも対応可能です。

馬場(DeNA SOMPO Mobility): またAnycaのようなシェアリングエコノミーのサービスでは、取引にコミュニケーションが発生するという特徴があります。TsugiTsugiさんのユーザーが、旅行やワーケーションで、ある土地を訪れた際、地元のオーナーさんと繋がれるという点が、ユーザーへの付加価値になるんです。

川元(TsugiTsugi): Anycaさんから当初提携の提案を伺ったとき、私自身はAnycaのことを知らなかったのですが、社内にAnycaのユーザーがいたんです。彼は山中湖に数人で行く際にAnycaで個人オーナーさんから車を借りていました。そのときオーナーさんに「山中湖に行くんだ」という話をしたら、オーナーさんがハンモックを貸してくれたらしいんですね。「湖のほとりでこれを使ったら気持ちいいよ」って。もちろん追加料金があるわけでもなく、「ぜひ使ってね」と気を利かせてくれたんです。彼は「すごく嬉しかった」と言っていました。そうやって新たなコミュニケーションが生まれるという体験は僕たちも作っていきたかったので、すぐに協業を開始できました。

伊藤(Zホールディングス): 馬場さんは社長なので「俺が決める」と即断即決できますよね。それに対して川元さんは社長ではないのでそうはいきません。だからと言って「上司に相談します」とは言いづらいじゃないですか。この問題の克服はどうしていますか?

川元(TsugiTsugi): おっしゃる通り、TsugiTsugiは社内ベンチャーであり社内のいち部門に過ぎないので、僕が全権をもっているわけではありません。しかし上司に相談して最低限の決定権はもらっています。上司と会社のサポートがあってこそですが、スピードで遅れないようにはしています。

僕たちは大企業だから、先方のスピード感が遅くても事情はわかりますが、スタートアップやベンチャー企業からすると遅く感じることはあるかもしれませんね。これはオープンイノベーションの課題だと感じますね。

ベンチャーにも大企業にも必要なのは主体性

伊藤(Zホールディングス): オープンイノベーションの話になったところで、今日は東急のオープンイノベーションへの取り組みについて聞きたかったんです。東急はTAPもあるし、オープンイノベーションに積極的に取り組んでいますよね。一方で、口だけ「オープンイノベーション」と言っている会社も少なくなくて、オープンイノベーションという言葉が、昨今陳腐化しているように感じます。その差はなんでしょう。

馬場(DeNA SOMPO Mobility): 「会社として新規事業をやらないといけないから、君が担当ね」と決められて担当者がオープンイノベーションに取り組む会社と、「こういう世界が来る」「だからこれに取り組まないと!」とメラメラしている会社の違いじゃないでしょうか。そういう会社としての意思がある方が、担当としては動きやすいですよね。特に、しんどいときに動きや思考に違いが出るかと思います。

川元(TsugiTsugi): 大企業とベンチャーでは「なんか面白そうですね」「なんかやりたいですね」と打ち合わせだけして二度と連絡しないというパターンがよくありますよね。そうならないためには、そもそも自分たちで解決したい課題がなんなのかという「主体性」が大事だと思います。

テクニカルなことを言うと、宿題の出し合いっこは必要だと思います。その場でなんとなく話が盛り上がって終わりにしないためには、お互いが能動的に宿題に対応することが大事ですね。

武居(TAP): 「オープンイノベーションを通して何を成し遂げるのか」という点は非常に大事です。なのでTAPは東急グループ各社とディスカッションして「今年度、オープンイノベーションで取り組むべきは何か」「そもそも課題は何か」といったことをすべて会社ごとにリスト化しています。

そのリストには「どんな技術が、どのバリューチェーンで必要になる」ということが書かれてあるんです。それを作ることでコミュニケーションが生まれたり、相互理解が深まり、共通認識に繋がり、本気で取り組まなければいけないという雰囲気の醸成につながっていますね。

伊藤(Zホールディングス): そういう話を聞くと「ベンチャーのいいとこ取りをしよう」といった感じもないことがわかります。「一緒にやろう」という意志が伝わってくる。

武居(TAP): もちろん最初から上手くいっていたわけではありませんが、「一緒に事業を作っていこう」「課題解決の前ではみんな対等」という意識は醸成されていると感じています。

伊藤(Zホールディングス): 「スタートアップと大企業」という関係ではなくて「事業家と事業家」という関係が作られているんでしょうね。

川元(TsugiTsugi): そうかもしれないですね。僕らは新規事業というよりは社内ベンチャーなので、リソースも十分にあるわけではありません。それもあって協業相手にリソースをお借りしながらご一緒させていただくという意識はあります。

馬場(DeNA SOMPO Mobility): お互い必死なのは大事ですよね。私もベンチャーとして色々な会社の方とお会いして、「こうゆうことを一緒にさせてください」と提案するのですが、その際、先方に「はい、はい。助けてあげる」と言われてしまうと正直萎縮しちゃいます。一方、「うちは、こういうことがやりたいんだ。だから、こうやって一緒にできるといいね」と言ってくれる方に出会えたら、ものすごく嬉しいですし、建設的で正直なコミュニケーションが取れることが多いです。

伊藤(Zホールディングス): 確かに。自分のチームの中で理念の共有はできるんですけど、オープンイノベーションではそれを他社とやらなければならないというのが難しいですよね。

大企業が新規事業に取り組むときのコツ

武居(TAP): オープンイノベーションに係るスタートアップと大企業のコミュニケーションについて、何かいい対策はありますかね?

伊藤(Zホールディングス): これは僕も使っていた方法ですが、大企業側のやり方として、小さく始めることです。経営陣があまり見ていないところで小さくやる。いきなり大きくやろうとするとブロックされてしまうから、そういうことをされないように小さく始めるんです。僕も実際、なるべくお金を使わないで「どうにかなりますから」といってコソコソやっていました。

伊藤(Zホールディングス): だから大企業の皆さん、「東急はTAPとかあんなにでかくやっているじゃないか」なんて言って、いきなり真似しちゃダメですよ(笑)。「それは新規事業なの?」みたいなレベルでやらないと。

武居(TAP): そうですね。最初は小さくても色んな事例を作っていって「TAPに関わるといいことがありそうだな」と思われることに努めました。なので最初は組織ではなく個人レベルで関わってくれて、次第に組織が関わってくれるようになってきたんです。それで機をみて「24時間365日受け付けています」「いつでもオープンイノベーションという手段・武器を取れる体制を整えていきます」という体制や見せ方に変えていきました。

伊藤(Zホールディングス): そういう意味では、結局一枚岩になるためには3年くらいかかるってことですよね。

武居(TAP): TAPが先述したような通年応募制に切り替えたのはまさに3年経過したときですね。

伊藤(Zホールディングス): ホテル業界はコンサバなイメージもありますが、その中で新しいことに取り組むための秘訣はありますか?

加藤(東急ホテルズ): 秘訣というわけではないですが、会社全体が新しいことに取り組んでいく文化になることが大事だと思います。私は2018年から社内でオープンイノベーションの担当をしているのですが、当時は「100%完成していないプロダクトを使うの?」「PoC? なんで?」と、かなり言われていました。ただコロナ禍でホテルという事業が立ちいかなくなったときに、スイッチが切り替わった。このままではジリ貧なので、「とにかくやってみようよ」という雰囲気になっていったんです。

伊藤(Zホールディングス): なるほど。DeNAは新規事業をたくさん手掛けていると思いますが、会社の文化は新規事業に影響していますか?

馬場(DeNA SOMPO Mobility): そう思います。例えばミーティングで発言しない人がいたら「君、なんで発言しないの? 次から出なくていいよ」なんて新卒時代から言われますからね。だからDeNAには自分の言いたいことを発信していくというカルチャーがあるんです。それは新規事業でも同じで、「こんなことやりたいんです」「じゃあ1回やってみたら?」と話が進む。そういう文化や環境はありますね。

伊藤(Zホールディングス): なるほど。言いたいことを言い合える文化も大事ということですね。

カーシェア×ホテルで変わるビジネスモデル

伊藤(Zホールディングス): 東急ホテルズとAnycaも連携を検討しているんですよね?

加藤(東急ホテルズ): はい。EVという時流に乗ったプロダクトをホテルに置けないか検討しています。これが実現できれば、先述したホテルに宿泊以外の目的ができることになるので、面白いですよね。今座組を整えている最中です。

馬場(DeNA SOMPO Mobility): ぜひよろしくお願いします! なぜ東急ホテルに相談したかというと、Anyca経由でしか乗れないヒョンデのIONIQ 5というEVがあるのですが、これを上手く生かせるんじゃないかと考えたんです。

そもそもなのですが、EVとカーシェアは相性が悪いんです。カーシェアは稼働率ビジネスですが、EVには充電時間が必要。充電設備が整っていないと、それだけでアイドルタイムが奪われてしまう。だから普通に考えたらカーシェアにEVは導入しにくいんです。

しかしEVを体験した人が買った場合に発生するインセンティブが作れるのなら、カーシェアでもEVを事業として扱える可能性が出てきます。そうなったら好立地の場所にEVを置いて体験していただきたいですし、車の購入可能性が高そうな方がいるところに置きたい。その点ホテルユーザーとEVは相性がいいと思ったので、相談させてもらったんです。

伊藤(Zホールディングス): テスト利用の場としてホテルを使うというのは面白いですね。

武居(TAP): ホテルと連携するTsugiTsugiにしても、サブスクのサービスとは相性がいいはずなので、もっと色んな会社と連携できるんじゃないかと思うんです。ホテル空間の中で試せるコーヒーでも入浴剤でも、そういうサービスを提供するDtoCと連携してホテルで試せるようにできたらいいですよね。という話を川元としています(笑)。

川元(TsugiTsugi): 最後にだんだん企画会議みたいになってきましたね(笑)。とにかくTsugiTsugiは間口が広いので、色んなサービスと連携がして、それを付加価値にできるのかが勝負だと思っています。どんどんブラッシュアップしていきたいですね。

伊藤(Zホールディングス): TsugiTsugiと連携したいというサービスはTAPに申し込めばいいんですか?

川元(TsugiTsugi): はい、それでも大丈夫です。TAP側にはTsugiTsugiの課題を伝えているので。

伊藤(Zホールディングス): TAPはちゃんと運営されていますから、皆さん安心して問い合わせて下さい。なんだか私も東急に入りたくなってきました(笑)。

武居(TAP): ぜひお願いします(笑)。

川元(TsugiTsugi): TsugiTsugiからもお願いします(笑)。

伊藤(Zホールディングス): 検討しておきます(笑)。

武居(TAP): ということで、本日はTsugiTsugiを題材に、オープンイノベーションへの取り組みについて聞いていきました。皆さま、ありがとうございました。

(執筆・撮影:pilot boat 納富 隼平)